2019年12月14日 (土)

福島第一原発の視察

 Dsc_7637 一昨日、福島第一原発(1F)と除染廃棄物の中間貯蔵施設を視察する機会がありました。 1F構内に入るのは初めての経験でしたが、各施設や構内は予想以上に整備・整頓されていました。執務室や食堂など事務棟の各部屋は明るく清潔で、人々の顔つきからも悲壮な表情は見られませんでした。放射線環境も大きく改善されていました。原子炉建屋周辺を除いてはタイベックス防護服姿の作業員も少なく、我々も防護服なしでの視察となりました。原子炉建屋を見下ろす架構上での線量は約100μSv/hと大きめでしたが、3時間ほどの滞在で累計線量は0.01 mSv(全γ線)でした。事故後8年を超えて放射能が減衰したのに加えて、ガレキなどの廃棄物が除去され、敷地内の殆どがフェーシング(吹き付けも含めた舗装)された効果でしょう。

  一方で、廃炉に向けた道は極めて困難であることが改めて実感できました。東電と経産省(資源エネルギー庁、廃炉・汚染水対策チーム)による30-40年で廃炉措置達成という目標は「絵に描いた餅」です。廃炉事業の最大の目玉といえるデブリ(溶融燃料)の取り出しについては、格納容器内が高線量ゆえに、ほんの一部を除いてその位置、形状さえも把握されていないのが現状です。正常に役割を終えた原子炉の廃炉でさえ、通常は数十年かかります。1998年に運転を終えた東海(第一)原発は2030年度に解体作業の完了予定とのことですが、これまでも延長を重ねてきましたので更に遅れるでしょう。

ましてや事故炉となると、例えば、米国スリーマイル島原発は1979年に事故を起こしましたが(燃料は溶融したが圧力容器内に留まり、格納容器は無事)、40年を経た今年、「今後、60年をかけて廃炉にする」と発表しています。格納容器が健全なスリーマイル原発一基だけで100年かかります。格納容器が損傷し、建屋が破壊され、放射能が飛び散った福島原発4基の廃炉・解体がたった30-40年で終了する筈がありません。

これには、今後の国内原発の再稼動推推進に向けて福島事故を少しでも小さく見せたいという政府の意向が大きく働いているのでしょう。このような虚偽、欺瞞のロードマップを前提として膨大な被ばく作業が強いられ、泥縄式の汚染水対策が続き、地域住民は放射能の残る(1.0から20 mSv/年への基準緩和も大問題!)地元への帰還を迫られています。形だけの復興が大きな破綻や新たな災禍を招くことを懸念します。

 私たち(原子力市民委員会)では、巨額コストと被ばく労働を避けるために、原子炉建屋まるごとの長期隔離保管を提案しています。詳細は原子力市民委員会のHPより「特別レポート・100年以上隔離保管後の後始末」をご覧ください。

http://www.ccnejapan.com/

 そしてもう一つの大きな懸念が溜まる一方の汚染水の問題です。先日、インターネットTV「デモクラシータイムズ」にて、この件についてお話をしてきました。

https://youtu.be/3aOgrHaYc4Q

ご覧になっていただければと思います。

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(写真提供:原発ゼロの会)

 

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2009年1月29日 (木)

縮小を続けるアラル海

91028 かつて世界第4位の湖沼面積を有したアラル海が縮小を続け、今や瀕死の状態にあります。地球最大規模の環境破壊のひとつとして世界中からも多くの懸念が寄せられています。先日、NPO法人「日本ウズベキスタン協会」にてこの問題に長らく関わってこられた東京農工大の川端良子準教授のお話を聞く機会がありましたので報告します。

衛星写真は2004年に撮影されたものです。黒い線は1950年時点での海岸線です。1960年代から縮小を続け、今では面積、貯水量ともに当初の四分の一以下に減少しています。海外線は180キロメートル以上後退しました(一日平均約10メートル以上!)。かつては湖底であった砂漠には多くの漁船や貝殻が取り残されています(下の写真)。

原因は1950年代から始まった上流地域での大規模灌漑です。ソ連邦時代に綿花の一大生産地として位置付けられたウズベキスタンは独立後の今も綿花は最大の外貨収入源として国策上の最重要生産物のひとつなっています。加えて、周辺国を含めた人口の増加と社会の発展に伴う、工業用水、都市生活水、緑化灌漑水をアラル海に注ぐ2大河川(パミール山系を源流とするアムダリヤ、天山山系を源流とするシルダリヤ)からの取水に頼ったため、ついにはアラル海への流入量が蒸発量を大きく下回ったのです。砂漠地帯を横切る灌漑や開発のための運河が無造作な素掘りであったことも大量の水が砂漠に無駄に吸収されていくことの一因となりました。

結果として、アラル海の大部分は干上がり、塩分や重金属濃度が上昇し、漁業は壊滅し、地域住民の雇用と健康問題を引き起こし、周辺土壌は塩害に侵され不毛の地と化しました。

アラル海はシルダリヤが流入する北の小アラル海(カザフ領域)とアムダリヤが流入する大アラル海(カザフとウズベク)に分裂し、大アラル海は更に東西に分裂し、水深のない東側はほとんど消滅しかかっているのが衛星写真からもよく覗えます。

カザフ側は小アラル海だけでも救おうとシルダリヤ側の流量回復に努め、更に大アラル海への流出を防ぐために大規模堤防を完成させました(2005年)。それが功を奏し、現在では回復傾向にあるとのことです。

一方、大アラル海(特に東側)に関しては消滅は止むなしというのがウズベク政府の基本姿勢のようです。綿花栽培をはじめとするアムダリヤ流域での農業や都市部への水供給を犠牲に出来ないこと、干上がった湖底からのガス開発が開始され、新たな国家収入が見込まれることなど国家としての生存を優先せざるをえないことが理由です。また例え、莫大な投資により流入量を増加させたとしても、いったん破壊された生態バランスは復帰しないだろうという科学的見解もあります(例えば、カルシウム類を取り込んでいた貝類の絶滅による生物濃縮機能の不全)。

どうやら心情的な願いには反するも、かつてのアラル海の回復は「不可能」であるという前提の上で、環境と開発のトレードオフという現実を踏まえながらの解決策を探っていくしかなさそうです。植林活動(耐乾性、耐塩性に優れたサクサウールの木)、流域灌漑施設や運河の改良、綿花依存からの脱却(小麦等への転換)、工業設備における排水の再利用等々・・・。

私自身も10年以上にわたるこの国の開発分野との関わりの中で大量の水資源の恩恵を蒙ってきたことで、決して他人事ではない痛みを感じます。地球全体に求められている「持続可能」な発展への知恵と行動がここでも必要とされています。

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2008年6月 8日 (日)

FoE Japanによる環境活動

FoE (Friends of the Earth) Japan100万人以上の会員を有するFoE Internationalの一員として1980年から活動を続けている環境NGONPO法人)です。日本においては約600名とかなり少ない会員(サポーター)数ですが、スタッフを中心としたその活動範囲は極めて多岐にわたっています。

今日(6月7日)は、そのFoE Japanの年度総会に参加してきました。この環境NGOの特徴はとりわけ地球環境の問題を国際的視点から一般市民のみならず企業や政府機関に対しても働きかけを継続していることです。他の環境NGOと協力しながら政府機関との協議の場も多く設けています。2007年度の主な活動分野を挙げてみますと以下のようになります。

1.  森林プログラム

2.  砂漠緑化プロジェクト

3.  ロシアタイガプロジェクト

4.  気候変動とエネルギープログラム

5.  くらしとまちづくりプログラム

6.  開発金融と環境プログラム

これらのいずれのプログラムにおいても会員参加型の現地調査や学習に加えて、関係省庁や企業への政策提言を活動のひとつに据えており、現実を見据えた実効性のある解決案を模索しています。私にとってはこれまで携わってきた仕事柄、6番目のプログラムの中の一課題である化石燃料開発プロジェクトが環境や気候変動に与える影響がとても気になるところです。

今年度は洞爺湖でのG8サミットを目前にして各国が地球温暖化問題で足並みを揃えることが出来るかどうかが問われています。昨年のIPCC4次報告書では2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を50%以上削減せねば地球は壊滅的な打撃を受けることを警告しています。G8サミットにおいては圧倒的な経済活動によって気候変動現象を引き起こしてきた先進諸国の責任と行動が大きく問われています。予想される洪水、水不足、感染症の拡大等によってまず被害を受けるのは発展途上国の人々であることも忘れてはならないでしょう。先進国における規制の強化と排出の削減(炭素税の導入も含め)に加え、途上国被害の緩和政策も重要です。

地球温暖化の問題は理解に一定程度の努力を必要とすると共に、掴みどころの範囲が広く、また実に実践の難しい課題です。でも、ひとり一人は「微力ではあるけど無力ではない」ことを旨としてこの問題に向き合っていこうと思います。

FoE Japanの活動は以下のWeb Siteで詳しく紹介されています(左のロゴからもリンクされています)。

http://www.foejapan.org/

皆さんもそれぞれに更なる一歩を踏み出してみては如何でしょうか。

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2007年5月 6日 (日)

続・IPCCによる温暖化報告書

Vista PCへの乗り換えに加えて公私共に多忙な日が続き、気がついたらGWも終わろうとしています(悲しい・・・)。

さて、

先月のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)2作業部会報告「温暖化の影響予測」に続いて、第3作業部会報告「温暖化対策」が発表され、昨日の新聞に大きく採り上げられていました。排出枠取引についてはなかなか理解が難しい点もあるのですが、簡単にまとめると以下のようになるようです。70506ipcc_1

(1) 気温上昇を産業革命以前比で2.0-2.8度の上昇に抑えるためには2015-2020年までに排出量を減少に転じさせ、2050年には半減させなくてはならない。

(2) 排出枠取引等でのCO2価格を50$/tonとした場合の対策費はGDPの約3%

(3) 風力、バイオ等の代替再生エネルギー、省エネ技術等の例示

まず、気温上昇の許容範囲ですが、第2作業部会報告書をもとに前回も書いたように、人間活動と社会発展を持続する上での許容範囲は1990年比で2度の温度上昇(CO2換算濃度550ppm)と言われています。産業革命以前(280ppm)と比べると1990年時点ですでに0.6度上昇していますから、上の2.0-2.8度は許容範囲ギリギリということになります。

しかしながら、今後、温室効果ガスの排出の大幅増加を避けられない中国の強い主張により上昇許容範囲6度のシナリオを追加しています(CO2換算濃度1000ppm!)。この場合、地球が壊滅的な状況に陥るであろうことは明白です。各国の足並みの乱れが収まりません。

排出枠取引については、1997年の京都会議にて各国の目標値(日本はマイナス6%)と共に「柔軟性処置」のひとつとして採尺されています。排出目標の削減が困難な国(あるいは地域、)が目標以上に排出削減可能な国から排出権を購入しようというもので、すでにEU域内や米国企業間では実施されています。しかし、この方法は排出枠を買って削減目標値を「稼ぐ」ことで、自国内での削減意欲を削ぐとの批判もあります。炭素税等の直接賦課手法がより「効果的」であることは言うまでもありません。炭素税については産業界が猛反対するであろうことは明白ですが、すでにオランダや北欧諸国においては環境税として導入しており、環境先進国として再生エネルギーへの転換にも積極的です。

新技術については原子力発電の利用について米欧で見解が分かれたようです。核拡散、廃棄物処理の問題に加え、万一の大事故の場合は放射能の恐怖が私たちを襲うことになります。東西冷戦時に、核戦争の結果として放射能の塵がやがて太陽熱を遮断する「核の冬」という言葉が使われました。「地球温暖化」を「核の冬」に置き換えてはなりません。

地球温暖化を少しでも食い止めようと、国民ひとりひとりの意識も大きく変化してきたように感じます。このことが更に膨大な量の温室効果ガスを排出し続ける産業界への圧力と政府の取り組み姿勢への監視という形で発展していくことが出来ればと思います。

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2007年4月 7日 (土)

IPCCによる温暖化報告書

昨日(46日)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書が発表されました。その晩のTVニュースと翌日の新聞で報道されていましたが、松坂大輔の活躍の陰に隠れてしまったようです。

さて、この報告は地球温暖化の現状の深刻さを改めて浮き彫りにしています。シュミレーションによれば、2020年代(あと十数年後!)の気温上昇幅(1990年比)は0.5-1.2度、2050年代は1.0-3.0度、2080年代には1.3-5.3度と予想しており、それぞれの予測被害影響が報告されています。影響はまず、干ばつ、洪水、熱波、感染症の拡大といった形で低緯度に位置する発展途上国に現れると予測されています。海面上昇が大洋上の諸島に与える致命的な影響も深刻です。それが次第に全地球へ破滅的な影響を与えようとしています。70407climate_1

これらが化石燃料の使用に伴う温室効果ガス(主にCO2など)の発生増加によるものであることはすでに疑いの余地はなくなりました。この間、一部の利害を有する国家(米国、ロシア、中国、産油諸国)や産業界からの異論により因果関係の特定と国際協調にブレーキがかかっていましたが、事象の深刻化(米国におけるハリケーン被害の影響等)、大気中のCO2濃度と気温上昇との因果関係の明確化等により、やっと各国によってこの問題が全人類にとっての最緊急課題として認識されたと言えるでしょう(米国は1997年の国連京都会議議定書を未だ批准していませんが)。

産業革命以前の大気中の温室効果ガスはCO2換算で280ppmと言われています。それが現在では430ppm(平均気温1990年比約0.5度の上昇)に増加しました。産業も含めて人間活動と社会発展を持続する上での許容範囲は550ppm1990年比2度の温度上昇)と言われています。この数値が人類にとって死守すべき数値です。

京都議定書での日本の温室効果ガス削減目標は6%1990年比)でした(環境省主導による「チームマイナス6%」として官庁や多くの企業、個人が運動に参加)。昨今の予想を超える深刻さに、今、ヨーロッパ諸国では8%の削減目標を更に20%削減にまで拡大しようとしています。今回のIPCC第4次報告書を契機に削減へ向けた一層の運動の拡大と抑制対策への投資を望むものです。

ところで、このブログの左欄に数ヶ月前から「FoE Japan」のリンクバナーが貼ってあることにお気づきでしょうか?これは世界70ケ国に100万人のサポーターを持つ国際環境NGOFriend of Earth」の日本ネットワークで、私もサポーター会員のひとりです。環境NGONPO)としては他にも「2050」「地球村」「CASA」等、団体としては「Green Peace」「WWF(世界自然保護基金)」等がありますが、ヨーロッパにおけるこうした草の根市民運動の参加者数に比べると圧倒的に少ないのが実情です。皆さんも地球温暖化防止に向けた一歩としてこうしたNPONGOへの参加はいかがですか?

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