2010年6月 7日 (月)

え?ブラームスのピアノ協奏曲第3番?

100607pc3 ブラームスのピアノ協奏曲第3番とは?ひょっとして新発見?タイトルに惹かれて少し前(2月発売)の新譜を購入しました。これはクロアチア出身の若手ピアニスト、デヤン・ラツィックにより「ヴァイオリン協奏曲」のソロ部分をピアノに置き換え、カデンツァを自身の作曲としたものです。

さて、のっけから響くのは当たり前のことながら重厚なブラームスサウンドです。オケだけの前奏に続いて、いつものようにヴァイオリンの登場が・・・というところで力強く現れるのがピアノのフォルテシモです。違和感はほんの十数秒で、すぐにピアノ協奏曲の世界に入り込みます。ピアノ協奏曲2番とも相通じる推進力に溢れたリズムがむしろピアノとの相性を良くしているのでしょうか。カデンツァを経由して堂々とブラームスの音世界を造り上げます。

翻って、第2楽章ではやはりピアノの粒立ちよりもヴァイオリンの情感と香ばしさに軍配が上がります。オケへの溶け込みと浮き上がりを繰り返す、計算されたハーモニーの美しさはやはり弦楽器ならではのものです。

最終楽章のアレグロでは再びピアノが縦横無尽に活躍します。ここでも前進的なリズムが更にピアノを引き立てます。オケとのスリリングな掛け合いならばピアノ、サウンドとのハーモニーの妙を楽しむならばヴァイオリンかもしれません。

結論として、単なるキワモノに留まらない面白さですが、ピアノ協奏曲「第3番」を騙ることには不満です。ブラームスのピアノ協奏曲にはたった2曲だからこその尊さと不滅の価値があります。この曲はあくまでも「ヴァイオリン協奏曲のピアノ編曲版」にとどめておくべきものでしょう。

ちなみに手元からお気に入り盤を選ぶと、「ヴァイオリン協奏曲」は若き独奏者の溌剌さを美しいオケが支えるムター・カラヤン・BPO盤(1980)、「ピアノ協奏曲1番」は瑞々しい独奏と躍動する管弦楽が掛け合いの妙を聴かせるツィマーマン・バーンスタイン・VPO盤(1995)、「ピアノ協奏曲2番」は身震いのするような完成度の高さでゼルキン・セル・クリーブランド盤(1966)です。

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2009年10月31日 (土)

『パトリシア・プティボン』 @オペラシティ

91031petibon_2 ついに念願だった生プティボンを聴くことが出来ました。1031日、オペラシティコンサートホールでのレヴィ指揮、東フィルをバックにした演奏会です。前半はモーツァルトとハイドンを中心とした古典作品、後半はうって代わってミュージカルナンバーを含めたアメリカ音楽集という大胆な組み合わせでした。

さすがにフルオケをバックとした歌唱を長時間続けることはせず、合間にオーケストラ曲を挟みながらのコンサートとなったことはプティボン目当てのファンにとってはちょっと残念です(無理をして喉を潰されても困るが)。前半はCD『恋人たち』ザルツブルグ映像ですでにお馴染みの曲が続きます。身振りと表情の豊かさはいかにもプティボンならではの表現です。併せて声の表情も千変万化です。ファンには堪りませんが、好みは分かれるかもしれませんね。ハイドンの『ご機嫌よう、親愛なるセンブルニーオ』ではついにプティボン・ショーが始まりました。指揮者のレヴィを巻き込んでのダンスです。

後半はまず、バーバーの歌曲『この輝ける夜に、きっと』の静かな美しさにうっとりです。バーンスタインのキャンディード、『着飾って、きらびやかに』では、小さな山高帽を頭に載せての登場の場面から笑わせてくれます。クネゴンデ姫の哀楽を一層デフォルメしたコミカルな演技と歌唱で会場を沸かせます。まさにプティボンの真骨頂です。

アンコールは指揮者レヴィのピアノをバックにコール・ポーターの「Everytime We Say Good-bye」が静かに歌われました。ミュージカルナンバーを含めたポップス曲が似合うオペラ歌手というものでは、恐らくプティボンの存在は飛び抜けているでしょう。例えば、フローラン・パニーとの「Guide Me Home」を聴いてみよう(YouTube映像はここ)。

コンサートを終わってのサイン会の場は長蛇の列で、流石に並ぶ気は起りませんでしたが、現れた私服姿プティボンは舞台上とはまた大きく違った、とても気さくで飾り気のない自然の笑顔をサインを求める人たちに振り撒いていました(下の写真)。好感度倍増です。

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2009年7月 9日 (木)

「ロシア・ナショナル管弦楽団」@東京文化会館

90708 久々のオーケストラコンサートは川久保賜紀をソリストに迎えてのミハイル・プレトニョフ指揮、ロシア・ナショナル管弦楽団来日公演でした(78日、東京文化会館)。

プレトニョフといえば最初はピアニストとして脚光を浴びたものの、ソ連崩壊前夜の1990年に民営のロシア・ナショナル管弦楽団(RNO)を創設し、その後はピアニストとしても指揮者としても活躍を続けています。RNOもすでに創立20年を迎えようとしていますがロシアを代表するオーケストラの一つとしてすっかり定着したようです。

最初の曲はリムスキー・コルサコフの組曲「雪娘」です。初めて聴く曲でしたが、ウォーミングアップよろしくフルオーケストラサウンドを心地よく鳴らしていました。第二ヴァイオリンを右側に配してバランスをとると共に中央部から、いかにもロシアのオーケストラらしい豊かな低音域を響かせていました。

次のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲では川久保賜紀の豊かでスケールの大きな演奏に圧倒されました。オケとの息もぴったりです。第一楽章でカデンツァが消え入るように終わり、オーケストラがそれを優しく引き継ぐ箇所の絶妙さ、全編にわたるフルオーケストラとの掛け合いの妙など、さすが2002年チャイコフスキー・コンクール最高位(1位なしの2位)とロシア有数のオーケストラとの組み合わせです。ある意味、超ベタとも言える組み合わせですが、チャイコフスキー情緒にたっぷりと浸るには申し分がありません。

最後はベートーヴェンの交響曲第三番「英雄」です。プレトニョフの「英雄」は、各所でタメを作ったりテンポを揺らしながらもオケを完全に掌握しきった演奏を聴かせてくれました。鋭さやスマートさというものは感じられませんでしたが、低音域を響かせながらオケと一体になった、まるで重戦車のように迫力あるロシア風のベートーヴェンでした。と同時に、チャイコフスキーの協奏曲がその時々の独奏者との独特の緊張を生みだすのに対して、ベートーヴェンの交響曲の場合は20年にも及ぼうとする指揮者とオーケストラのすでに出来あがった演奏スタイルというものを強く感じました。

今夜のコンサート、梅雨の蒸し暑さを吹き飛ばすには最適の選曲と演奏でした。

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2008年10月19日 (日)

プティボンの新譜・『恋人たち』

81018 パトリシア・プティボンの久しぶりの新録音です。国内版の発売に先駆けて輸入盤を入手しました。曲目はプティボンの守備範囲のど真ん中でもあるハイドン、モーツァルト、グルックのオペラ・アリアで手堅くまとめています。安定した歌唱と豊かな表現で健在ぶりを示してくれましたが、彼女特有の遊び心はほとんど封印しています。アーノンクールとのハイドン「アルミーダ」「騎士オルランド」といった作品で聴かせてくれたバロックセリアの延長線にあるアルバムです。弾力性に富みながらも引き締まったオーケストラ(ハーディング指揮のコンチェルト・ケルン)をバックによく伸びるコロラトゥーラを自在に操っています。

これまでプティボンについては何度か書いてきました(HPでの紹介DVD「フレンチタッチ」、YouTube映像ザルツブルグ・ガラ・コンサート)。

やはりプティボンといえば、歌の巧さに加えて、コメディエンヌぶりも含めた愛くるしい仕草と自由闊達な表現力に惹かれます。残念ながら行きそびれましたが、今年の来日公演でも多くの聴衆の心を引きつけたようですね。インタビューでは、これからの自分の活躍を宣言していました。今回のメジャー(DG)での新録音を弾みに更に多くの舞台や映像に登場してもらいたいものです。

10/26追記

このアルバムを機に作成されたDGによるプティボンのオフィシャルサイトがあります。嬉しいことに、録音風景の映像(モーツァルト「夜の女王」「ツァイーデ」、ハイドン「月の世界」)を視聴することが出来ます。いかにもプティボンらしい大きな身振りと表情の豊かさが印象的ですし、カジュアル姿にもとても好感が持てます。プティボンファンは必見です。

スケジュール表によると、来年のザルツブルグに「コジ」で登場なのですね。簡単に行かれる身分ではないため映像化に期待です。

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2008年6月29日 (日)

金丸葉子・『シャコンヌの情景』

80629kanamaru_2  ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)のヴィオラ奏者、金丸葉子さん(アムステルダム在住)のデビューアルバムがリリースされました。『シャコンヌの情景・ヴィオラによる300年の回顧』という表題が示すように、バッハから現代に至るまでのシャコンヌ演奏の変遷を辿る試みに挑戦されています。納められている楽曲は以下です。

1.    J.S.バッハ「シャコンヌ」

2.    ヘンデル(ハルヴォルセン編曲)「ヴァイオリンとヴィオラのためのサラバンドと変奏曲」

3.    リゲティ「無伴奏ヴィオラソナタ」

4.    ビーバー「ロザリオのソナタ」より「パッサカリア」

5.    ヘンデル(ハルヴォルセン)「ヴァイオリンとヴィオラのためのパッサカリア

6.    野平一郎「バッハのシャコンヌによる4つヴィオラのためのトランスフォルマシオン

シャコンヌ、サラバンドとその発展形のパッサカリアは僕ら音楽素人には全く区別がつきませんが、元々は16世紀頃にスペイン文化圏で生まれた舞曲が起源であろうと言われています。低音反復が特徴で、代表的な曲といえば、このアルバムの最初にも納められているバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番」の終曲に加えて、ベートーヴェンのピアノ曲「創作主題による32の変奏曲」、ブラームスの交響曲第4番」の終楽章等などが良く知られています。

このアルバムではバロック時代からはバッハとヘンデル、ビーバー、近現代からはハルヴォルセン、リゲティ、日本人作曲家からは野平一郎の作品が選ばれています。ヴィオラという楽器は決して派手な存在ではなく、オーケストラの中でもこの楽器が主旋律を主張することは稀です。加えて、このアルバムでは学術的探究も含めた選曲がなされており、決して耳に心地よい響きや旋律ばかりを奏でてくれるわけではありません。しかし、バッハの作品群がそうであるように、じっくりと聴き込むほどに味の出てくる不思議なアルバムとなっています。器楽曲の多くがそうであるように内証的で、楽曲そのものに向き合う緊張感もまた良いものです。

数曲で共演しているのがRCOのコンサートマスター、リヴィヴ・プルナール氏です。昨年、来日して金丸さんとの共演リサイタルを開催しました。金丸さんには今後もRCOやサイトウキネンオーケストラ、諸リサイタルでの活躍にとどまらず、更に録音を重ねてもらいたいものです。

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2008年3月 4日 (火)

クラシク専門局・『OTTAVA』

80304ottava2 最近、深夜にはTBSによるデジタル・クラシック音楽専門局、OTTAVAからのライブ放送を流しながらPCに向かうことが多くなりました。

http://ottava.jp/index1.html

すでに多くのクラシックファンの方々が利用されていると思いますが、実は僕の場合は雑誌MOSTLY CLASSICの今月号で初めて知った次第です。それまで、PCで流すクラシック番組といえば、もっぱらiTunesメニューによる「ラジオ」でしたが、音質に圧倒的な差があります。しかも選曲と10名のプレゼンターたちのセンスの良さに惹かれます。

曲目は幅広いジャンルから選ばれています。一曲への割り当て時間が短く、交響曲や協奏曲はその一部の楽章しか採り上げられないのが時として不満ですが、全曲を聴きたくなったらCDに切り替えれば良いのです。

音源はNAXOSが中心です。スター演奏家はいませんが、簡単な曲目の説明と演奏者名が表示されるのが嬉しいです。初めて耳にする曲も多く、新しい音楽や演奏家との出会いを楽しむことが出来ます。今、この瞬間もグリークの「抒情組曲」を流しながらキーボードを叩いています。

メニューから過去の番組を「ON DEMAND」で呼び出したり、「PODCAST」でPCに取り込んだり、オリジナル音源をダウンロード購入することも可能ですが、この番組は良質の音楽を「流す」ことに最大の持ち味がある以上、そのままライブストリーミングを楽しむのが一番のようです。

曲がプッチーニの「歌に生き、愛に生き」に替わっています。今夜は今しばらく、このままOTTAVAからの音楽を流しながらあちこちのblogにお邪魔することにしましょう。80304ottava

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2008年1月22日 (火)

テオドラキス・『ZORBAS』

80122zorbas_2  ギリシャの作曲家、ミキス・テオドラキスのバレエ組曲『ゾルバ』をamazonから取り寄せて聴いています。デュトワ指揮、モントリオール交響楽団、2000年の録音です。

多様性に溢れた音楽で、とても楽しめます。もともとは映画、『その男ゾルバ(実は未見です(^^;))』のための音楽で、美しいメロディが聴き易く、しかも、単なるオーケストレーションの魅力や雄渾さを超えた民族的な力(バルカンの要素?)が圧倒的なのです。クラシックやポップスといった境界を凌駕した音楽の力がそこにはあります。とても深い叙情性(ソプラノと合唱も素晴しい)と民族的リズムに溢れ、強い共感と心に直接訴える感動を与えてくれます。

僕がこの作曲家の存在を知ったのはかなり古く、1975年前後だったと思います。当時、ギリシャの軍事政権に抵抗する(投獄と亡命を経験)作曲家として知られていました。今でもよく覚えているのは、ガルシア・ロルカの詩に、ジョン・ウィリアムスがギター伴奏をつけ、マリア・ファランドーレが歌ったアルバム『ジプシー歌集』です。故あって、そのLPを手放してしまい、その後、今に至るまでCD化されたものを探しているのですが見つかりません。

ところが、遂にYouTube上でその一部を見つけました。

http://www.youtube.com/watch?v=9DhqtrLjdH4

かなり後年になってからのコンサートライブで、残念ながらJ・ウィリアムスは出ていませんが、テオドラキスとファランドーレのヴォーカルを聴くことが出来ます。

ギリシャの民主化が果たされてからは国会議員、大臣としても活躍し、1992年のバルセロナ・オリンピックのための音楽も書いています。映画音楽(軍事政権への抵抗映画『Z』が有名)に加えて、交響曲やオペラも書いていますが政治活動の陰に隠れてしまっているのでしょうか、あまり陽の目は見ていないようです。このバレエ組曲『ゾルバ』を聴く限り、ますます興味を惹かれる作曲家です。この素晴らしい演奏を残してくれたデュトワにも感謝です。

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2007年12月23日 (日)

ミシュクのピアノリサイタル@千葉

71222mishuk 特に予定のなかった三連休の初日、雑誌で見つけたピアノリサイタルにぶらりと出かけてみました。ピアニストのウラジミール・ミシュクはロシア出身で、1990年のチャイキフスキーコンクールでは第2位を獲得したとのことです。

プログラムはベートーヴェンの「悲愴ソナタ」に始まり、ドビュッシーの「アラベスク」、「月の光」他、リストの「愛の夢」、「ラ・カンパネラ」他、ショパンの「幻想即興曲」「英雄ポロネーズ」他といった、いわゆる名曲と小品のオンパレードです。もう一つのやはりポピュラーなプラグラムと共に全国を回っているようですが、モトを取らねばならない招聘元と日本を絶好の市場とするロシア人ピアニストとの思惑が一致すると、このようなプログラムになるのでしょうか。一方、地方や地域でのクラシック音楽普及にはそれなりに貢献しているのかもしれませんが・・・。

会場の千葉市美浜文化ホールは新興住宅商業地域の真ん中に位置し、いかにも今流行りの文化行政によるハコモノらしく、音響に優れた350席の快適な中ホールでした。昼間の公演ということもあり、家族連れと年配女性が多いように思われました。ブーニン、キーシン、ポゴレリッチたちを支持してきた層が年代を超えて続いているのでしょうか?

さて、肝心の演奏ですが、力強い一方で荒削りな印象を受けました。音が濁っているような感じで、強音が割れたり、弱音部でもピアノ独特の香るような粒立ちが聴こえてきません。ピアノ(スタンウェイD274)とホール音響がマッチしていないのでしょうか?

また、技巧は別として、ミシュクのそっけなさも目立ちます。新鮮味の無さはプログラムのせいとはいえ、プロである以上はもっと聴衆を強く惹きつける個性を示してもらいたいものでした。会場がそれなりに沸いたのはミシュク自身によるものではなく、プログラムの中のリストやショパンのヴィルトーゾ性によるものでしょう。アンコールのシューマンでやっと本気の一端が披露されていたように感じましたが遅すぎです。「悪くはない」けど「面白みも少ない」演奏会でした。

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2007年12月15日 (土)

B・ハイティンクのマーラー交響曲第4番

71209mahler4 前回の2番『復活』に続いてマーラーの交響曲4番を聴いています。今回は架空の演奏会ではなく、ベルナルト・ハイティンク指揮による昨年11月のロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)デビュー50周年記念コンサートのライヴ盤です。それにしても50年とは凄いですね!1956年の11月に27才で病気のジュリーニに代わってRCO(当時はアムステルダムコンセルトヘボウ)の指揮台に立ったそうです。私がまだ学生時代だった1968年秋のRCO来日公演で指揮台に上がったのはオイゲン・ヨッフムでした。すでに首席の座をハイティンクに譲っており、引き継ぎを兼ねた来日公演でした。

 以来、約30年間にわたる首席指揮者時代を含めハイティンクとRCOの結びつきの強さは最近のオーケストラの世界では類を見ません。しかし、同時代の他のスター指揮者たちに比べるとハイティンクはどうしても地味であるとの印象は免れず、人気も決して高いものではありませんでした。しかし、この数年のRCOの高評価と人気の急上昇(来日コンサートのチケットは即完売、昨年のヨーロッパの評論家ランキングではVPOに続いて2位)は指揮者M・ヤンソンスに負うところが大とはいえ、長い期間にわたってRCOの実力を維持したハイティンクの功績を忘れてはならないでしょう。今回の記念コンサートもRCOの楽団員から慕われ続けた彼の音楽性と人間性があってこそ実現したものと思われます。決して大向こうを張ったりはしない誠実味に溢れた温かいマーラーを聴くことが出来ます。

さて、このコンサートにはソリストにクリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)が起用されています。鮮烈な印象を残した、私にとって初のシェーファー体験が19982月のベルリンでのラトル/BPOによる、マーラー第4番の生演奏でした。それから約10年を経て、このRCOとの共演でもシェーファーは稟とした清潔感はそのままに、柔らかく語りかけるように「天上の歓び」を情感こめて歌いあげています。

また、ベルリンでのコンサートの機会を与えて下さったKさんが今はRCOのヴィオラ奏者としてご活躍されていて、今回の録音にも参加されたことを前に伺いました。そのこともこの新盤への思い入れを深くしています。

ところで、私自身は特に大のマーラーファンという訳ではなく、この4番もとりたてての名曲とは思えないのですが、いつの間にか7種類のCDが貯まっていました。

・セル/クリーヴランド管/J・ラスキン/1965

・クーベリック/バイエルン放響/E・モリソン/1968

・テンシュテット/LPO/L・ポップ/1982

・マゼール/VPO/K・バトル/1983

・ドホナーニ/クリーヴランド管/D・アップショー/1992

・ハイティンク/BPO/S・マクネアー

・ラトル/バーミンガム市響/A・ルークロフト/1997

さすがにどれも素晴らしい演奏です。今回、最終楽章だけを聴きなおしてみましたが、やはりソプラノにより大きく印象が異なりますね。情感と温かみに溢れていて最も心に響いてくるのはL・ポップ、声の美しさと巧さではK・バトル、D・アップショー、S・マクネアーといったアメリカ組が優勢のようです(マクネアーの名前はこれまで聞いたことがなく新発見)。

いずれにせよ、今回のRCO/シェーファー盤でこの曲は買い止めとしますので、雑誌や皆さんからの推薦盤情報には目と耳を塞ぐことにします(^_^;)

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2007年11月24日 (土)

S・ヴィエラのマーラー交響曲第2番『復活』

71123mahler  パリでセバスチャーノ・ヴィエラによるマーラー2番『復活』の演奏会がありました。サルヴァトーレ・リッピの追悼コンサートとのことです。・・・と、これは発売されたばかりの「のだめ」第19巻の話(^^;)。で、この際折角だから、最近ご無沙汰のマーラーでも聴いてみようかと♪

手元には5種類の『復活』のCDがありました。最初に取り出したのは、初のマーラー体験(当時はLP盤)ですっかりこの演奏が頭の中に刷り込まれてしまった(1)クレンペラー/フィルハーモニア管による1961年の録音です。マーラーから直接の薫陶を受けた大指揮者は、この巨大で変化に富み、独創的かつ雄渾な一大交響曲を更にスケールアップして、圧倒的な様式感に満ちた演奏を聴かせてくれます。フィルハーモニア管の設立者であると共に、最初に音楽プロデューサーとしての地位を確立したと言われているウォルター・レッグがカラヤンに続いてEMIに連続録音を行ったクレンペラーシリーズのひとつです。当時のステレオ録音への積極的な息吹が伝わってくるような雰囲気を持っています。ソプラノにレッグ夫人でもあったエリザベート・シュワルツコップを起用したことが一層の様式感と格調を高めています。

次の(2)ショルティ/CSO盤(1980)は数多くあるこの曲の名盤の中でも代表的なものの一つでしょう。当時、高性能オケの代表ともいえるシカゴ響とのコンビによるマーラー全集は多くのファンを新たに作り出しました。オケの力と録音技術によりマーラーの新しい世界を開拓したといえるでしょう。だからといって力ずくの音響だけが売り物の録音ではありません。骨太でありながら激情に溺れることなく、実に精緻で極上のサウンドによって至福の時間に浸ることが出来ます。

(3)スラットキン/セントルイス交響楽団(1982)は今では忘れ去られている演奏でしょうが、デジタル時代のパイオニアともいえるTELARC社の録音はダイナミクレンジをフルに活用してオーディオマニアたちの垂涎の的でした。この会社はクリーヴランドやセントルイス、シンシナティ等のアメリカの高性能オーケストラを中心に多くの録音を出しました。「音量を大きくするとスピーカーを破損する恐れがあります」という注意書きに釣られて「春祭」やら「1812年」等の管弦楽曲を買ってしまったのは私だけではないでしょう。『復活』の雄渾な音楽もTELARCにとってはうってつけの題材です。演奏そのものはオーソドックスですが音の響きの良さと美しさは今なお色褪せることなく一頭地を抜いています。

(4)小沢/サイトウキネン盤は2000年の東京文化会館におけるライブ盤で、その年のレコードアカデミー賞を受賞しました。サイトウキネン・オーケストラについてはもはや余計な説明は不要でしょう。このマーラー演奏もいかにも小沢らしく明快で歌心に満ち、それでいて緊迫感に溢れています。小沢と楽団員たちが最終章に向けて共に盛り上がっていく様子が表情も含めて目に浮かぶのは非常設型のこのオケならではの特徴かもしれません。

最後が(5)ブーレーズ/ウィーンフィル(2005)による新しい録音です。ブーレーズというとあまりに分析的な演奏と思われがちですが、ここではVPOということもあるのかもしれませんが、精緻な音作りの一方で、たっぷりの高揚感に浸ることも出来ます。そういえば、ブーレーズはバイロイトでワグナーを振ったり、複数のオケでストラヴィンスキーを繰り返し録音したりと、かなり大向こうを張ることもしているのです。このCDを購入したもうひとつの理由はソプラノにクリスティーネ・シェーファーが起用されていることです。出番は多くありませんが、最終楽章の後半で合唱の中から忽然と現れる稟としたソプラノはまさしくシェーファーやシュワルツコップの真骨頂です。

以上、どれもが素晴らしい演奏であり録音です。更に、ワルター、バーンスタイン、アバド、クーベリック、シノーポリ、インバル、ラトルといった世に誉れの高い演奏を加えるならば、『復活』というのは名盤の宝庫であり、まさしく作品そのものがそれらを生み出していると言えるのでしょう。さて、次はバーンスタイン/VPO盤でマーラーの激情に浸ってみることにしましょうか。あるいは千秋とのだめが感動したセバスチャーノ・ヴィエラの演奏もぜひ聴いてみたいものです。

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