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2018年7月 5日 (木)

映画『マルクス・エンゲルス』

なぜ今、「マルクス・エンゲルス」なのでしょうか?640

この作品が訴えようとしているメッセージは一体何なのでしょうか?この映画の中で、主人公の若きカールマルクスとフリードリッヒ・エンゲルスたちは19世紀半ばのヨーロッパを舞台に、官憲のみならず多くの政治党派との路線や綱領をめぐる闘いを繰り広げます。

若い二人の不屈の闘いを描くことを通じて、今の時代に階級論や共産主義思想の啓蒙を図るのが目的とも思えませんし、マルクス主義の現代的読み替えの試みがなされている訳でもありません(*1)。物語としても特に波乱万丈という訳ではなく、歴史的事実が淡々と進行して行きます。映画の中での議論も史実に沿ってその時代を反映したもので、特に現代風にアレンジし直したものではなく、劇的効果を高めたものでもありません。映画のサイト等で製作者の意図を探ることはしていませんが、見終わった後の中途半端な気持ちは拭えないままです。

自分のマルクス体験もすでに遠くなりました。学生時代や組合活動時代を通じて、この映画のモチーフともなっている「共産党宣言」や「賃労働と資本」といった入門書に加えて、「ドイツ・イデオロギー」「経済および哲学手稿」「経済学批判」等々にも手を出したものです。解釈への良き助けになると同時に、変革に主体的に関わる姿勢を分かり易い言葉で教えてくれたのが「人間論」(三一書房)などの梅本克己の一連の著作でした。企業に入ってからは労働の位置づけや価値について向き合うこととなり、また組合活動の一環として冊子を纏める必要も出てきました。その際に常に規範となったのも前述の「経哲手稿」からの「労働疎外」の視点で、その後の自分の考え方にも大きな影響を与えてきました。今、取り組んでいる原発や環境問題を企業や労働からの視点で考える際にもこの原点にしばしば帰る思いがしています。

さて、映画に戻ると、それぞれ興味深い議論の場面が多く、この時代は思想家や党派の間での理念上の闘いが主でした(それでも無政府主義者や共産主義者たちは厳しい弾圧を受けていました)。マルクス達が持ち込んだ妥協なき階級闘争への宣言は、その後、ロシア革命にて現実のものとなります。

実は、今読み返しているのがジョン・リードの名著「世界を揺るがした10日間」です。ロシア10月革命時のドキュメンタリーで、革命家や労働者たち登場人物の一人一人が実に生き生きと描かれています。ジョン・リードの半生を映画化した「レッズ」はハリウッド映画ということもあるのでしょうが、思いっきり感情移入のできる作品でした。もともと比較に無理があることは承知ですが、今回の「マルクス・エンゲルス」には、折角の題材を生かすためにも、もっと共感を得るための脚本上や演出上の工夫があっても良かったのではと思います。メッセージの欠如と併せて残念な思いです。

(*1)例えば、マルクス主義の現代的な読み替えの例として、的場昭弘著「マルクスだったらこう考える」(光文社新書2004年)などは新鮮で面白く読みました。今、マルクスの視点で現代社会を問い直す試みは無駄ではないと思います。

 

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