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2016年11月17日 (木)

『トリスタンとイゾルデ』@METライブビューイング

Trist_2662a6_2メトロポリタン・ライブビューイングの2016-2017シーズンが始まりました。このシリーズを観始めたのが2007-2008年のシーズンですからすでに9年目に入っています。最初の作品は「ヘンゼルとグレーテル」で、当時はレビュー記事を本ブログに真面目に毎回アップロードしていました(^^;)。いまでも毎年数本は見ているのですが、ブログへの投稿はすっかりさぼっています。

  さて、「トリスタンとイゾルデ」は中世騎士物語、冗長、メリハリ不足といった勝手な先入観でこれまで避けてきた作品でした。しかし、MET LVの指輪シリーズ全4作を飽くことなく、アンコール上映を含め3サイクルも通ってしまったことでワーグナーアレルギーからは自由になり、今回の上映はこの作品への挑戦の絶好の機会となりました。そして結果として、音楽、舞台映像ともに期待通りの素晴らしさで約5時間にわたる実に濃密な音楽時間を楽しむことが出来ました。

 イゾルデのニーナ・ステンメ(S)は昨シーズンの最後を飾ったR・シュトラウス「エレクトラ」でも素晴らしい歌唱と演技を披露してくれたばかりでした。それ以前は映像でのブリュンヒルデ(スカラ座、2010年、2012年)への違和感(歌唱は立派でも直立不動、衣装の不似合い、表情の怖さ(^^;))のせいか、決して好みの歌手ではありませんでしたが、「エレクトラ」での印象は一変しました。彼女には現代風演出であることに加えて、ドラマチックソプラノの奥深さを味わせてくれる、密室劇が似合うのかもしれません。いずれにせよ、ステンメによる、エレクトラ、イゾルデの初体験がこれらの作品への共感を思いっきり深めてくれました。

指揮のS・ラトルはMETライブビューイングでは初登場でしょうか?圧倒的な音の洪水になりがちなオーケストラを抑制的に美しく鳴らしていました。インタビューで、「出演者たちが、自分のアピールではなく、一体感のある舞台を創ることに集中していた」と発言していたように、あくまでも観客の立場に立ち、音楽の持つ魅力自身に語らせることを優先していたように思えました。

M・トレリンスキによる演出は上述したように、現代に置き換えていますが、密室劇のため全く違和感はありません。観る者にとっては、媚薬によって人格が一変してしまうという「おとぎ話」要素は無視して、ただひたすらに、「愛と死」だけに魅せられた男女の濃密な音楽劇に浸ればよいだけなのです。その意味で、元々は映像作家というトリレンスキの美しく幻想的な場面を含む現代風の舞台美術はこの作品にぴったりでした。常に海の香りを漂わせる映像も、アイルランドと英コーンウォール地方を結ぶ海峡を舞台とした物語のリアリティを増すことに貢献していました。

これで「トリスタンとイゾルデ」への苦手という先入観は払拭することは出来ましたが、ワグネリアンの世界はまだまだ遠いままです。さて、9年目に入ったライブビューイングの演目も繰り返しが多くなってきました。今シーズンで目を惹く作品は「ナブッコ(雄渾な音楽)」、「エフゲニー・オネーギン(未見)」、「ばらの騎士(ガランチャ出演)」といったところでしょうか。あ、来夏のアンコール上映での「トリスタンとイゾルデ」は必見・必聴となるでしょう。

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