『神々の黄昏』@METライブビューイング
遅れ馳せながら、先日のMETライブビューイング、ワーグナーの「神々の黄昏」の報告です。リングサイクルも進むにつれて、物語の舞台は神話世界から人間世界へと降りてきますが、この最終夜では表題に似合わず、もはや神々は登場せずに、権力の行方が複雑に絡み合う、人間たちの愛憎劇となっています。これまでの三作と同様、休息を含めた5時間半を豪華な舞台と壮麗な音楽に、たっぷりと浸ってきました。
R・ルパージュによる舞台は、4作を通じて、巨大な24枚の板をコンピュータ制御により縦横に駆使するものです。第1作「ラインの黄金」での水中を泳ぎまわるシーンや、第2作「ワルキューレ」の騎行などのスペクタクルな場面では度胆を抜かれましたが、今回のような人間劇では、主に映像投射によるスクリーン背景として使われていました。ラインの岩場シーンでは、水の流れ落ちるさまを美しく投影し、そこを乙女たちが繰り返し滑り降りていました。豪華セットならではの斬新な演出です。
ジークフリートを演じたジェイ・ハンター・モリス(T)は若々しいが、精神的には未熟な主人公役にぴったりでした。前作の「ジークフリート」の時以上にこの役に馴染んでいたようです。大物のワーグナー歌手には決して出せない初々しさに溢れたヘルデンテノールが魅力です。
デボラ・ヴォイト(S)の、ブリュンヒルデは、ワルキューレの一員であった頃からアメリカンテイストな人間味が十二分に出ていました。体型は決してキュートとは言えませんが、表情豊かな表現力は歌唱共々、お見事です。
ワルキューレの一人、ワルトラウテ役に何と、名ワーグナー歌手のヴァルトラウト・マイヤー(MS)が出演していました。つい先日、NHK BSによるバレンボイムとミラノスカラ座の「ワルキューレ」の放映で、彼女のジークリンデに魅了されたばかりでした。今回、出番は僅かとはいえ、ベテランの味わいを感じさせてくれました。流石にMET。新人からベテランまで見事な配役です。
新人といえば、グートルーネ役のウェンディ・ブリン・ハーマー(S)は、「ラインの黄金」でフレイアを演じていました。なかなかの美形で、この重厚な超大作に僅かながらも可憐な味わいを与えてくれていました。
そして、レヴァインの代役としてタクトを振ったファビオ・ルイージは、決して力任せになることなく、美しく、しかも雄弁な音楽を聴かせてくれました。おどろおどろしい展開に似合わない、とても心地良いワーグナーの音楽でした。
こうして、4回にわたったリングサイクルも終わりました。また夏のオフシーズン中にリバイバル上映があるのでしょうか?是非、もう一回通して見てみたいと思っています。
尚、三作品の過去ログは以下です。
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コメント
ご無沙汰です。マイヤーの名前を見てコメント書きたくなりました。スカラ座の放映も素晴らしかったし、来日した時のローエングリンはまだ目に焼き付いています。初めて彼女の映像を見たのが、バイロイトでのワルトラウテ役でした。その時のブリュンヒルデが誰か忘れましたが、マイヤーの方がよっぽどうまいと思いました。METですからまたNHKで放映されるのが楽しみです。
投稿: Ken GODA | 2012年3月14日 (水) 23時45分
ご~けんさん、こちらこそ、ご無沙汰しています。
もともと、ワーグナーにはあまり縁がなかったので、マイヤーについても名前しか知りませんでした。しかし、今回のMETでもひと際輝く存在感を放っていました。過去の歌唱や演技を改めて振り返ってみたくなりました。
投稿: YASU47 | 2012年3月15日 (木) 10時41分