『ジークフリート』@METライブビューイング
ワーグナーのリング・サイクルも三作目を迎えました。タイトル・ロールが急遽、代役のジェイ・ハンター(T)に変わったということで話題になっていました。若手(といっても40才?)で経験も少なく、不安視されていたようですが、よく伸びる美声と溌溂とした思い切りの良い演技は、純粋無垢、単純で恐れを知らないジークフリード役にぴったりでとても好感が持てました。
この作品はどうも前半が苦手なのです。話がくどく(対話による過去の筋書き説明が多い)、音楽も様々な動機が断片的に繰り返されることで追いきれません。ミーメとさすらい人の対話のあたりではしばし意識朦朧となりました。それでも、ジークフリートのノートゥングを撃つ音に飛び起きます。迫力に満ちた反復とエネルギッシュな音楽は第一幕のハイライトですね。
第二幕の「森のささやき」の場面は、このおどろおどろしくも壮大な権力闘争と殺し合い、裏切り、愛憎劇の中で数少ない、牧歌的な味わいを与えてくれるシーンです。大蛇ファーフナーを倒した後に澄み切った声で小鳥のさえずりを歌ったモイツァ・エルドマン(S)がカーテンコールと幕間のインタビューに登場しました。つい先週、ツェルリーナを達者に演じていたばかりの美形の若手ソプラノです。これから人気者になっていくのでしょうか?
第三幕でブリュンヒルデが登場し、やっと期待通りの高揚感を得ることが出来ます。愛を歌う二重唱は指輪全体を通じても、ここと「神々の黄昏」の第一幕でしか聞くことは出来ず(ワルキューレでのジークムントとジークリンデは対話式)、フツーの(?)オペラに慣れた耳を安心させてくれます。
R・ルパージュの巨大な板を使った演出にもすっかり慣れて、違和感はないものの、あまり新鮮味を感じることはなくなりました。多くの場面で音楽が難解で、説明と理屈満載のこの音楽劇に長時間(正味約4時間)真正面から付き合うのはちょっと辛い気もしますが、聴きどころでは繰り返し感動を味わいたい作品ですね。
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