『サティアグラハ』@METライブビューイング
米国の作曲家、フィリップ・グラスによる現代オペラ、「サティアグラハ」は何とも不思議な作品でした。「サティアグラハ」というのはサンスクリット語で「非暴力、不服従」を意味するとのことです。20世紀初頭の南アフリカを舞台に、インド移民たちへの差別に対する抵抗運動を繰り広げるガンジーの前半生を描いています。歌詞は「ヴァガヴァット・ギーター」というサンスクリット語で書かれたヒンドゥーの聖典から採られたとのことですが、舞台上の出来事とは一致していないそうです(字幕もなく、意味も分からないので、「だそうです」を鵜吞みにするしかありません)。これは歌詞を音として体感しなさいというのが作曲者の意図とのことでした。
ミニマル・ミュージックと言うそうですが、いつまでも単純に反復される断片的なリズム、メロディーと歌詞(音感)に最初は戸惑いましたが、次第に心地よさに包まれていくという不思議な感覚を味わいます。最初はまるでバッハみたいだとも感じたのですが、サンスクリットの音感と合わさると、むしろ経に近いことが分かります。心地よさと安心感の源はそこだったのですね。
一方、舞台演出、特に美術は斬新かつ刺激的でした。ガンジーは新聞発行を抵抗運動の柱に据えたということで、新聞紙を使った巨大な操り人形や、様々の演出が現れます。それらの形、色彩、動きに目を奪われます。特に第二幕は秀逸でした。
主役のガンジーを演じたリチャード・クロフトは、聖典の表現に相応しく、抑制を効かせながらも澄み切ったテノールを聞かせてくれました。助演者たちも、それぞれの役割をきちんと果たしています。舞台上では、計算された集団振り付けの中に個々の動きは埋没され、歌手たちに特に演技は求められません。ただ、Schlesenという同志を演じたラシェル・ダーキンというソプラノの存在感が際立っていました。全体に平坦な音楽劇の中で、意図的なアクセントの付加が計算されていたのでしょうか。尚、舞台は3幕に分かれ、それぞれの場面における共感の対象として、トルストイ、タゴール、キング牧師が常に舞台の背景に登場します。多少のこじつけ感があります。
米国生まれの現代オペラと言いながらも、古代サンスクリットの空気やバロック要素を感じさせる不思議な音楽体験でした。
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