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2011年6月25日 (土)

『六月大歌舞伎』 @新橋演舞場

110625 この齢になって初めて「歌舞伎」を観ました。新橋演舞場での六月公演「夜の部」は『吹雪峠』、『夏祭浪速鑑』、『色彩間苅豆・かさね』の3本立てです。幕開けと同時、効果音と共にいきなり現れた吹雪場面にまず驚かされました。背景は宵闇とはいえ鮮やかな色彩をもった舞台美術です。そこで繰り広げられた愛憎劇は台詞も含めて現代劇と変わりません。歌舞伎というものが、こんなにもモダンな装いであるとは知りませんでした。

二つ目の『夏祭浪速鑑』は約2時間にわたる人情劇でしたが全く退屈することはありませんでした。物語の展開が一方通行(初体験者にとっては起承転結が理解できない)であることと、台詞が聞き取りにくいことに若干の難点はありましたが、明るい舞台色彩と衣装、コミカルな振り付け、簾の奥の雅楽などを楽しみました。そして何よりもあちこちで切られる見得への客席からの合いの手に、延亨2年(1745)と言われる初演以来、受け継がれてきた伝統というものを感じました。子役(市川染五郎の長男、松本金太郎)の「あい~」という台詞には会場から暖かいどよめきが伝わってきました。客席との一体感が歌舞伎の魅力の一つなのですね。TVに頻繁に登場する市川染五郎だけではなく、中村吉右衛門や片岡仁左衛門、中村歌六といった出演者たちへの予備知識や事前体験があればもっと楽しめるのでしょうね。

三つ目の『色彩間苅豆・かさね』は利根川沿い(我が家からも遠くない下総の木下)を舞台にした男女間のどろどろとした怨念と殺人劇を描きます。ここでも利根川流域の寂れた雰囲気を舞台美術が見事に醸し出します。市川染五郎と中村時蔵による艶麗な身のこなしがこの劇の怪奇性を一層増します。歌舞伎というのはあくまでも市井の、そして生身の人間たちを描くのですね。

三つの作品とも、この季節に実に相応しい作品でした。客席はほとんど常連で埋まっているような雰囲気で、幕間にはあちこちで弁当を広げる姿が見られました。私たちは2階の食堂で前もって予約した豪華な深川弁当とちらし弁当を美味しく戴きました。

なお、この場をお借りして、こうして思わぬ初体験の機会を提供してくれた友人のMさんに改めてお礼を申し上げます。

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2011年6月19日 (日)

『ワルキューレ』@METライブビューイング

110617walcure ワーグナーの『ワルキューレ』はMETライブビューイングの2010-2011シーズンの幕切れを飾るのに実に相応しい作品です。幕間(ライブビューイングではインタビューや特典映像と休息)を含めると合計で5時間14分にもなる長時間上映ですが全く退屈することはありません。現代技術の粋を集めた舞台美術に目を奪われると共に、圧倒的な力で音楽が鳴り続ける至福の時間を味わうことが出来ました。

私は所謂ワグネリアンではありませんし、未だにワーグナー作品を「理解」出来ていません。どちらかというとモーツァルトやR・シュトラウスの「洒落」を好みますし、ベルカントに酔うことも出来ます。一方、ドイツ精神世界を舞台とする物語に共感を覚えることは難しく、「指輪」についても人間以上に俗っぽい神々に神性は感じられず、性格破綻者たちの織りなす破滅ドラマに憂鬱さは感じても悲劇性は感じられません。登場人物たちへの感情移入も適うことはありません。理解のためには一度、台本とじっくり向き合ってみる必要があるのかもしれませんが・・・。

しかし、観終わった後の満足感は他のオペラ作品群とは全く異なる大きさと深さをもったものとなります。何といっても壮大なスケールの音楽に圧倒されるのです。特に「ワルキューレ」は指輪シリーズの中でも際立って音楽性の豊かな作品です。前作「ラインの黄金」から引き継いだモチーフ群(ヴァルハラ城、魔の炎、剣など)に加え、多くの新たな動機(中でも「ワルキューレの騎行」は圧巻)が加わり、ジークムント、ジークリンデの兄妹が歌う「春と愛の歌」、父娘が別れるシーンでの「ヴォータンの告別」、「魔の炎の音楽」などは実に感動的です。

今回の舞台美術は前作「ラインの黄金」の技術をそのまま踏襲です。最初の驚きこそありませんが、巨大な板の集合体によるゴツゴツした岩山から美しい森までの表現はとても斬新で楽しめました。勇ましい「ワルキューレの騎行」をバックに8人の女戦士たちが滑り降りるシーンはさながら一大エンターテイメントショーです。そう、純粋に楽しめば良いのです。

出演者たちも素晴らしかったですね。役柄の好き嫌いは別として、B・ターフェル(ヴォータン)とS・プライズ(フリッカ)の存在感は圧倒的でしたし、イケメンのヨナス・カウフマン(ジークリンデ)は映像盤(バイロイト1980)でのペーター・ホフマンを彷彿させるようでした。なかでも、もはや肥満体から決別したD・ヴォイトの感情豊かでコケティッシュともいえるブリュンヒルデは妙な魅力に溢れていました。フレミングといい、ヴォイトといい、アメリカ出身の熟年ソプラノはますます元気ですね。

これで、ライブビューイングも半年間の休みです。途中で再上映の機会があれば、また見たいのは「ラインの黄金」とこの「ワルキューレ」です。ワグネリアンに近づいたとは思いませんが、「食わず嫌い」ではなくなりました。

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2011年6月14日 (火)

「レ・ミゼラブル(レミズ)」25周年記念コンサート

110615 実は、私は「隠れ」ミュージカルファンです。最近は舞台を観る機会もめっきり減って忘れかけていた頃に、NHK BSのトニー賞記念番組の一つとして昨年103日にロンドンで行われた主題コンサートの模様が放映されたのです。いやぁ、レミズに思い入れのある愛好者にとってはまさに垂涎ものでした。

1990年代の後半に度々ロンドンを訪れる機会があり、その度ごとに通ったのがウェストエンドの劇場街でした。その中でもとりわけロングランを続けていた「レミズ」のPalace劇場、「オペラ座の怪人」のHer Majesty’s劇場、「ミス・サイゴン」のDrury Lane劇場、「サンセット大通り」のAdelphi劇場には何度も足を運んだものでした。ロンドン発のミュージカルは豪華絢爛なダンスを中心としたブロードウェイ発に比べると、ドラマティックな物語内容と美しいメロディラインによって深い感動を与える点に特徴があります。シェークスピアを生んだ演劇の国ならではの作品群が多く、ひとつの作品へのリピーターが多いのも特徴でしょう。キャメロン・マッキントッシュというプロデューサー(レミズ、オペラ座の怪人など)、アンドリュー・ロイド・ウェバーという作曲家(キャッツ、オペラ座の怪人など)の存在も忘れてはなりません

それらの中でもとりわけレミズは日本を含む各国でのカンパニー公演を含めて、恐らく世界中で最も愛されているミュージカル作品ではないでしょうか?ビクトル・ユーゴーの原作に基づく波乱の物語がスピーディに展開し、シンフォニックあるいは心に染み入る楽曲群はいつまでも耳に残ります。演出は舞台の隅々での細かい動きに至るまで計算され尽くしており、見るたびに新しい発見があります。ここぞと思った時に鳴ってくれる音楽と心の琴線に触れる美しいメロディは何度聴いても新鮮で思わず涙腺が緩みます。

昔、パソコン通信時代にNiftyServeのミュージカルフォーラムでミュージカルナンバーの人気投票というのがありました。記憶では、その時の1位がミス・サイゴンからの「私の命をあげよう」で、第23位がレミズの「I Dreamed a Dream(夢破れて)」と「On My Own」であったように記憶しています(女性ファンが多かったのですね)。一昨年、スーザン・ボイルがイギリスのオーディション番組でセンセーショナルな話題をさらいましたが、その時の曲も「I Dreamed a Dream」でしたね。これら3曲はともにクロード・ミッシェル・シェーンベルグの作曲になるものです。彼は無調音楽のアーノルド・シェーンベルグの又甥になるとのことですが音楽内容は全く異なりますね。

ちょっとマニアックな話に入りますが、この25周年コンサートでファンティーヌ役を務めていたのがレア・サロンガで、10周年記念コンサートではエポニーヌを歌っていました。もともとマニラでのオーディションでキャメロン・マッキントッシュに見出され、ミス・サイゴンの主役に抜擢された新人歌手で、私も彼女の歌うエポニーヌには何回か感動を覚えたことがあります。エポニーヌ役が年齢を重ねるとファンティーヌ役を演じるようになるのは25年もロングランを続けるレミズならのことでしょう。

このミュージカルに触発されて、ユーゴーの原作(岩波文庫全4冊)を読んだのはそれほど昔ではありません。小さい頃に誰もが読んだダイジェスト版とは全く異なる世界がそこにはありました。ここで豆情報を一つ。原作ではガブローシュはテナルディエの息子(すなわちエポの弟)です。ミュージカル版ではそんな様子は全くないですね。

尚、この25周年を契機にレミズは新演出に移行するとのことです。すでにヨーロッパでは新演出によるツアーが始まっているようです。日本でも今月中に現演出での公演が終了するそうですね。映像を駆使し、よりリアルな舞台となるらしい新演出を早く見てみたいものです。

と、レミズについて語り始めたらキリがありません。ちなみに私にとってのミュージカル・ベスト3といえば、「サンセット大通り」、「レミズ」、「レント」なのです。その「レント」の舞台版を今夜、NHKで放映中です。録画版を後でゆっくりと楽しむことにします。

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2011年6月 5日 (日)

プーシキン美術館 @MOSCOW

110604matisse_2 モスクワの休日、前回のトレチャコフ美術館に続いて今回再訪したのはプーシキン美術館です。トレチャコフがロシア絵画を中心としている一方で、プーシキンは中世から近代にかけてのヨーロッパ絵画を大量に収蔵しています。とりわけ私たちに馴染み深い印象派を中心とした近代ヨーロッパの絵画は別館に「19-20世紀ヨーロッパとアメリカ作品展」として纏められていてとても見やすくなっています。

展示は階ごとに大きく3つに分けられています。1階がコローやミレー、クールベらの自然を中心に描いた19世紀のフランス写実絵画群、2階がドガ、モネ、ロートレック、ピサロ、シスレー、ルノアール、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンといったパリのオルセー美術館も顔負けの印象派ならびに後期印象派の作品群、そして3階がマチス、ドランらのフォービズム、ピカソ、ブラックらのキュピズム、更にデュフィ、カンディンスキー、シャガール、アンリ・ルソーといった鮮やかできらびやかな20世紀絵画作品群が展示されています。それぞれに色彩、光、形などが実に個性的、かつ概して明るい絵が多く、観る者を幸福な気分にしてくれます。前回のトレチャコフでは「座るデーモン」の絶望感に気持ちが寄せられましたが、今回はルノアールの描くふくよかな少女たちやマチスの金魚のとぼけた表情などに思わず笑みがこぼれます。向き合うことによって想像力と好奇心の発揮を刺激される、そんな絵画とこれからも出会えていけたらと思います。

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