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2011年2月26日 (土)

浅田次郎『一刀斎夢禄』

110226 浅田次郎の新作は新撰組の三番隊組長を務めた実在の人物、斎藤一を主人公とした物語です。大政奉還によって京を追われた後は新撰組の生き残りと共に鳥羽伏見、甲州勝沼、会津と転戦し、維新後はしばらくの謹慎期間を経た後に警察官となります。やがて警視庁抜刀隊の一員として西南戦争に加わり、明治を生き抜くという数奇な運命を辿ります。まず、斎藤一を逆読みして題名の「一刀斎」としているところに作者の遊び心を感じます。

この作者による「斎藤一」像というのはすでに「壬生義士伝」で隊内一の偏屈者にして沖田総司や長倉新八に並ぶ剣の達人として描かれており、その性格付けは本作品でもそのまま踏襲されています。彼の新鮮組内での役割は主に暗殺や策謀面で、実際に多くの隊士の粛清や伊東甲子太郎一派を襲撃した油小路事件での暗躍等が言われています。本作では更に近江屋事件(竜馬暗殺)への関与も描かれていますが、勿論真偽の程は不明です(とりあえず、小説内の出来事としておきましょう)。

興味深かったのは、京落ち以降の連戦連敗の中で行動を共にする隊士たちの生き様です。近藤や土方、沖田といった有名人たちは別としても、登場人物たちを実名で登場させ、しかも実際の運命と重ね合わせています。ウィキペディア上の隊士録と重ねあわせてみるととても興味深いものがあります。陰にせよ、日向にせよ、明治以降も生き残った隊士というはかなり多かったのですね。

物語は大正時代に入ってからの斎藤一の独白として進行していきます。淡々と進むため、このままオチのない物語として終わるのかなという懸念もありましたが読み進めていくうちに、敗北の繰返しと見込みのない転戦に翻弄されてゆく隊士たちの生き様と主人公の揺るぎのない偏屈ぶりに引きこまれていくのでした。殆んど一気読みでした。しかし、最後の西南戦争の場面は意外性がなく、はやりオチ不足の感は免れない印象でした。

さて、私にとっての斎藤一というのはかつて(1965年)の人気TV番組「新撰組血風録」のイメージがいまだに刷り込まれたままになっています(今でもたまにCSで再放送されています)。そこで描かれていた斎藤一というのは浅田次郎の描く人物像とは全く対極的で、瓢々とした風貌のとても人情味に溢れ剣客でした。原作は司馬遼太郎でしたがドラマ向けに大きく改編されており、更に俳優、左右田一平の醸し出す雰囲気によるところが大きかったと思われます(下の写真)。栗塚旭の土方歳三、島田順司の沖田総司と共にはまり役として大いに人気がありました。数十年を経た今でも新撰組というと彼らの作り上げたイメージが先行してしまうのです。古いなぁ・・・。

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