『ラインの黄金』@METライブビューイング
恒例のMETライブビューイングの2010-11年シーズンが始まりました。幕開けはいきなり真っ向勝負の超ヘビー級作品、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」から『ラインの黄金』です。
実はこれまでワーグナー作品というのは所謂「聴かず嫌い」に近いものでした。ドイツ、ヴィスバーデンの歌劇場で比較的親しみ易い「タンホイザー」と「マイスタージンガー」を観たことはあるものの、指輪シリーズでは1977年のバイロイト音楽祭(ブーレーズ指揮)と1990年のMET(レヴァイン指揮)での映像作品の一部に接した程度で、その押し寄せるような音楽の力には圧倒されるものの、全曲を聴き通す忍耐力の不足、舞台上の歌手たちの動きの少なさへの飽き、ゲルマン民族精神世界の優越性への共感の欠如などから一定の距離を保ってきました。
しかし、今回の『ラインの黄金』は実に素晴らしかったです。まず、舞台装置が圧倒的です(演出はR・ルパージュ)。場面の切り替えと装置が動く度に見とれているうちに、2時間40分があっという間に終わってしまいました。オペラ(楽劇)というよりは、まるでイリュージョンの世界です。相変わらず動きの少ないヴォータンとフリッカですが、ラインの乙女たちの空中ショーや火の神ローゲの色彩効果などに目を奪われます。また巨大な板状の装置が、ある時はライン川底の岩礁を、ある時は荒涼とした大地を、ある時は地下洞窟へ通じる長い坂道を、そしてラストでは虹色に輝くヴァルハラ城を見事に表現する様には驚かされました(ちなみにこの装置は次作「ワルキューレ」以降にも使用されるよう設計されているとのこと)。
で、肝心の音楽ですが、ワーグナー作品の歌唱については論評する立場にないため割愛するとして、レヴァイン指揮のオーケストラはむやみに気負うことも、咆哮することもなく、また耽美や官能性を強調することもなく、むしろ柔らかく温かみのある音楽を聴かせてくれました(装置が目立ち過ぎたためにそう感じたのでしょうか?)。またそのこと(すなわち音が力任せにならないこと)が、台本の内容や劇の進行への理解をいっそう深めたように感じました。私の中でワーグナー作品への印象がかなり良い方向に振れたようです。ちなみに東劇の音響も昨シーズンに比べて更に改善されていたように思います。
こうして、今シーズンの幕開け作品は大満足で終わりました。引き続く諸作品も楽しみですが、とりわけ最終(来年6月上映)の「「ワルキューレ」と来シーズンの「ジークフリード」と「神々の黄昏」がいっそう待ち遠しくなってきました。
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