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2010年10月12日 (火)

浅田次郎・『マンチュリアン・リポート』

101010 「蒼穹の昴」、「珍妃の井戸」、「中原の虹」に続く、中国近代史を舞台にした浅田次郎の書き下ろしの新作を読みました。この作品は「蒼穹の昴」という大河小説に対する「珍妃の井戸」のように、「中原の虹」に対するサイドストーリー的な要素の強い作品です。「珍妃の井戸」では皇帝の愛妃殺害の瞬間に居合わせた多くの人物たちの証言集という多面的なミステリー手法を採ったように、この「マンチュリアン・リポート」でも張作霖爆殺の瞬間に向かう関係者たちの行動を解き明かすというミステリー色の濃い方法を採用しています。張作霖を乗せた機関車を擬人化して喋らせる場面では「トーマスか?」と思わずツッコミを入れたくなりますが、この御料列車の独白によって小説のロマン性が高まると共に、西太后時代から連なる歴史の一貫性がよく見えてきます。

プロローグでいきなり「人間」天皇を登場させます。躊躇さえ感じさせないそのくだけた口調によって天皇をいとも簡単にミステリー小説の一キャストとして扱ったことはちょっと驚きでした。このような、畏敬や、その一方での否定や批判の対象ではない天皇の描き方はこれまで読んだことがありません。

この小説で、すでに張作霖の爆殺が関東軍の陰謀行為であることは明白にしており、ミステリー色が濃いといっても、謎解きや犯人探しの物語ではありません。作者は張作霖という稀有の英傑(真偽は別として)の最後をロマンと覚悟と共に散った姿として描きたかったのでしょう。それにしても「中原の虹」での肩入れぶりに始まる張作霖への強い思い入れはどこからくるのでしょう?別途、その時代の歴史を紐解きたくなってきました。

小説の主人公である志津中尉、張作霖、トーマス、いや「鋼鉄の侯爵」に加えて、吉永中佐、岡圭之介、李春雷、李春雲といった懐かしい人物たちが登場します。やはり本篇の前には「蒼穹の昴」、と「中原の虹」を読んでおいた方が良さそうです。とりわけ最終章の紫禁城でのエピソードは前作を読んでいないと違和感があるでしょう。

さて、次は大河作品としての続編が楽しみになってきました。主人公は国共合作の立役者、張学良?あるいは「蒼穹の昴」でほんの数行だけしか登場しませんでしたが、野に逃れた王逸を師としたあの少年?

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