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2010年9月27日 (月)

吉田修一著『悪人』と映画『悪人』

100922_3 やはり、「観てから読む」よりも「読んでから観る」方が良いだろうと、吉田修一著の『悪人』(朝日新聞社)を文字通り一気読みしました。

福岡郊外で発生した一つの殺人事件を巡って関連する登場人物たちのそれぞれの立場での関わりが重層的に語られていきます。事件そのものは、しばしば発生する「出会い系」を契機とした「今どき」のものですが、単なる犯罪小説に留まることなく、現代社会の抱える病巣があちこちで描かれていきます。かといって、何らかの社会的メッセージを強く込めた重い作品という訳ではなく、むしろ登場人物たちの愛憎の相関関係や主人公二人の逃避行がスピーディに語られてゆく一級のエンターテイメント小説となっています。登場人物たちのモノローグも含めて描写や語り口は多面的ですが、「事件」という主軸がぶれることはなく、読んでいて集中力が途切れることは全くありません。主人公たちの悲劇をとりわけ感傷的に持ち上げるのではなく、また逆に彼らの社会的判断力の欠如を咎める訳でもなく、二人の切実さと必死さをひたすら描き続ける筆致にはとても好感が持てます。逃避行の果てのエピローグで、作者が二人のそれぞれの思いをとことんまでつきつめることをしなかったのは読者に想像の余韻を残したのかもしれません。

さて、一方の映画版『悪人』は、脚本が李相日監督と吉田修一氏の共作になるだけに原作の持つ空気がそのまま反映されています。つい先ごろ、モントリオール映画祭で深津絵里が最優秀女優賞を獲得したことで話題になりましたが、むしろ従来のイメージを大きく変えた妻夫木聡の凄味ある役作りに感心しました。常におどおどし、人の目を見ながら話すことの出来ない、危うく、常に屈折した青年の役は原作での主人公描写に更に説得力を加える好演でした。

他にも柄本明、樹木希林といったベテランの演技派たちが脇を固めて作品全体の質感を高めています。

深津絵里に関しては、モントリオールの批評家たちとは異なり、すでに多くの作品を通じてその演技力を知るだけに、特に驚きを感じることはありませんでした。彼女が出演した多くの映画・TV作品の中では、『ハル(1996)』での透明な表情に魅せられて以来、『きらきらひかる』でのひたむきな新入り検死官役、『スペーストラベラーズ(2000)』でのちょっと抜けたコケティッシュな銀行員役、『ザ・マジックアワー(2008)』での大人のコメディアンヌぶりなどが特に印象に残ります。

今回の素朴で内向的なヒロインは深津の真骨頂ともいえる役だけに安心して観ることが出来る一方で特に新鮮味はありませんでした。次回は再び三谷幸喜監督作品での主演とか。『ザ・マジックアワー』以上の楽しい作品を期待です。

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コメント

小説はだいぶ前に読んだのですが、わたしの中では強く印象に残る作品です。主人公に同化し過ぎて辛いものが残ったので、観ようかどうしようかと迷い、観ない方に傾きかけていたのですが・・・。今感想をうかがってやはり観ようか、という気分です。

投稿: carry | 2010年9月28日 (火) 06時53分

carryさん、
深津絵里を目当てで見に行ったのですが、原作の持つ、空気、匂い、肌触りなどが違和感なく映像化されていました。李相日監督は前作「フラガール」に続いてとても良い作品を作り上げたと思います。

投稿: YASU47 | 2010年9月28日 (火) 10時21分

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