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2010年7月28日 (水)

この夏の読書

100728 あまりの猛暑にブログネタと更新エネルギーも干上がり、暇な時間は熱中症予防を理由に冷房を効かせた部屋でもっぱら惰眠と読書です。

読書1:百田尚樹『永遠のゼロ』(講談社文庫)

本屋の店頭に山積みとなっていました。文庫化されてからとても売れているようですね。現代の青年が、「生きて帰る」ことに執着しながらも最後は特攻に散った戦闘機乗りの祖父の足跡を追うことで戦争に向き合っていくという物語です。登場人物の類型化や平板な文章といった小さな瑕疵はあるものの、深い内容と感動に満ちた作品です。綿密な調査の成果なのでしょうか、戦闘機部隊や特攻隊に関わった人々の想いを実に丁寧に描きます。重く考えさせるテーマを平易な作品に纏め上げることで、なまじっかの反戦論文よりもよほど大きなインパクトを与えてくれます。65回目の8月を迎えようとしているこの夏に、未読の方には是非お勧めしたいと思います。

読書2:吉澤誠一郎『清朝と近代世界』(岩波新書)

「中国近現代史シリーズ」の第一巻でアヘン戦争から清朝末期に至る期間を採り上げています。岩波新書では先行して「日本近現代史シリーズ」全10巻がすでに発売されており、日本の近現代史が良心的かつ新たな視点で綴られています。中国シリーズは始まったばかりですが、中国史というと、どうしても春秋戦国、楚漢、三国時代といった古代から中世にかけての当たり障りのない歴史と英雄ロマンが興味の中心となってしまいますが、この第一巻では日本の近代史にも直接に関わる清朝末期の様々な出来事を興味深く知ることが出来ました。

読書3:浅田次郎『蒼穹の昴』(講談社)

かつてのベストセラーですが、遅れ馳せながら中国近現代史シリーズ」の第一巻に触発されて一気呵成に読みました。西太后や光緒帝、李鴻章、康有為といった歴史の表舞台に立った人物たちと、作者が生み出した梁文秀(実在の梁啓超がモデル)、宦官の李春雲(春児)といった小説の主人公たちを巧く絡ませながら物語は壮大な人間ドラマとして発展していきます。つい先日までNHKでもドラマが放映されていましたね。見損なったので再放送に期待です。尚、続編として「珍妃の井戸」、「中原の虹」がすでに発表されていますので、この夏の後半の楽しみの一つです。

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2010年7月12日 (月)

民主党惨敗 @参議院選挙

100711 昨日の参議院選挙は民主党の惨敗、自民党の回復、みんなの党の躍進、護憲勢力の退潮という結果に終わりました。しかし、どうも腑に落ちません・・・。結果については事実として受け止めるとしても、争点が一体何であったのか今だによく分からないのです。一体、何を巡って、私たちは一票を投じたのでしょうか?

審判を受けたのは消費税問題?鳩山・小沢両氏のカネの問題?普天間基地を巡る迷走?浮揚しない景気?進まない行政改革?昨年の総選挙マニュフェストからの後退?

しかし、例えば消費税や政治とカネの問題ならば何故、自民党が議席回復?普天間問題ならば何故、社民・共産が議席減?民主党への失望票がみんなの党へと流れたことは容易に想像がつきますが、そのみんなの党の実力も全く未知数です。結果として再び「政局」が政治を支配し(それを煽るマスコミの責任も大)、多くの人々がますます政治に嫌気をさしていくような気がします。

また、参議院が本来の意義、すなわち良識の府として内閣と衆議院への牽制機能を果たす役割を失い、衆議院と同様に党派対決の場と化してしまったことにより、いっそうその位置づけへの疑問も湧いてきます。参院は今や単なる政権への3年毎の中間評価と党派による「ねじれ利用」の場だけと化しているように思われます。

いずれにせよ、今回の選挙結果により最も恐れることは、民主・自民を中心とした増税翼賛国会の出現と、衆参の比例代表議員定数削減化による少数政党の切捨てです。小選挙区制の悪しき弊害がいっそう強調され、弱者と少数意見が切捨てられる世の中には絶対にしてはいけません。

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2010年7月 6日 (火)

オルセー美術館展 @国立新美術館

100629_2 平日の午前中だというのに六本木の国立新美術館内は大勢の訪問者で大混雑していました。日本人の絵画好き、それもフランス印象派関連作品への信仰に近いような憧れ故でしょうか?しかし、W杯狂騒や韓流ブームに見られる付和雷同的な国民資質というだけには留まらない、良く言えば本物への希求があるような気もします。TVやネット、ゲームといったバーチャル世界への反撃がここでも始まっているのでしょうか?混雑は快くはありませんが、悪くない雰囲気だなと感じました。来訪者はそれぞれの目論見やら視点から作品を楽しんでいるように見受けられました。

さて、展示されているのはパリのオルセー美術館から選りすぐりのポスト印象派作品115点です。創造的でまばゆいばかりの色彩と個性的な構図に溢れたお馴染みの作品群が並びます。これだけ密度の濃い絵画展というのも珍しいでしょう。勿論、ポスト印象派の作品群を一堂に会しているため、特定の作家をとことん探求出来るという展示ではありません。

例えば、セザンヌの作品は8点で、2008年に横浜で開催された「セザンヌ主義展」の40点には及びませんが、数ある中でも最もそれらしい「サント・ヴィクトワール山」が展示されているなど、全作品がいわゆる傑作と呼ばれているものです。

他にもモネ、ドガ、ゴッホ、ゴーギャン、スーラ、ベルナール、ボナールといった教科書や雑誌、画集でお馴染みの絵画が並びます。ゴッホの「星降る夜」の何と幻想的で美しいこと!ちょっと毛色は異なりますが、最後の部屋にはアンリ・ルソーの「戦争」がピカソの「ゲルニカ」に劣らない力をもって観る者の感性に迫ってきます。

さて、私が最初に印象派(あるいはポスト印象派)の作品に接したのは30年以上前になります。当時はチュイルリー公園の一角にある「ジュ・ド・ポーム美術館」(印象派美術館とも呼ばれていました)にそれらの作品群が収められていました。最初の部屋にドガの踊り子作品がずらりと並べられていた記憶があります。当時からモネの作品はその殆んどが公園の向かい側に対象形に建てられたオランジェリー美術館に集められていました。地下の「睡蓮の部屋」が有名ですね。

その後、印象派関連作品はル-ブルの近代作品群と共にオルセー美術館に移設されて、「ジュ・ド・ポーム」の持っていた小じんまりとした落ち着きは永久に失われてしまいました。残念な気もします。一方、アンリ・ルソーなどはポンピドー美術館にあったような記憶が・・・。

以来、あちこちで印象派とポスト印象派の作品に接する機会はありましたが、今回の展示はそれらに全く劣らない素晴らしいものといえます。遠く離れた日本でこれだけの「名画」に一挙に向き合えるだけでも幸せといえるでしょう。混雑さえ我慢すれば、入場料1,500円は断然お得です。

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