『アルミーダ』@METライブビューイング
今シーズン最後のライブビューイング上映は殆んど上演されることのないロッシーニの珍しい作品です。原作は16世紀のイタリアの詩人、トルクァート・タッソによる叙事詩「解放されたエルサレム」で、11世紀の第1回十字軍遠征時の諸エピソードを収めたものとのことです。この物語からとられたオペラ作品としては他にハイドンによる同名作品(この方が有名)、ヘンデルの『リナルド』等がありますね。
という訳で舞台はエルサレム攻防戦の只中、小国の王女アルミーダ(実は魔女)による十字軍騎士リナルド誘惑作戦から始まります。まぁ、感情移入出来るような物語展開や台本ではなく、楽しむべきものはロッシーニの音楽、舞台演出、そして何よりもタイトル演じるルネ・フレミングです。そのフレミングはこれまでも何度か書いたように年令を重ねる毎に魅力と凄味が増していくようです。しかも、幕間インタビューで見せるいかにもアメリカ人らしい気さくで飾らない人柄にも惹かれます。今回のインタビューでは数多いレパートリーの中でも今後はR・シュトラウス中心でいきたいと話していました。来シーズンは『カプリッチョ』です(あまり面白い作品とは思いませんが)。決して美声とはいえない、またベルカントが似合うとも思えないフレミングですが、今回のロッシーニでは装飾的な技巧やクレッシェンドに磨きがかかっているだけではなく、更には台本が要求するアルミーダ像を遥かに超えた人物造形を表現していたように思えます。ラストでの復讐を誓うアルミーダの姿の格好の良いこと!(写真)。
他に主な見所として第2幕に大掛かりなバレエシーンがあります。明るくリズミカルな音楽とダイナミックな振り付けは大いに楽しむことが出来ますがオペラ作品としては若干の冗長感は否めません。第3幕のテノールによる2重唱と3重唱は歌唱という面では最大のクライマックスでしょう。ベルカント作品ならではの伸びやかな声の饗宴を楽しむことが出来ます。
さて、今シーズンのライブビューイングはこれで終了し、サイト上では今秋から来春にかけてのライン・アップ11作品が発表されています。さて、これまで苦手としてきた「指輪」にそろそろ真正面から向き合ってみましょうか。
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コメント
お久しぶりです。
残念ながらアルミーダは見逃しました。
ただ、以前にも書きましたが、フレミングのCDを買い集めて聴いている僕ですが、正直なところその実力の程はどうなのかと思っています(元々彼女の声は得意ではないのですが)。
一番酷かったのはミュンヘンフィルと共演した「4つの最後の歌」。
パワフルな歌唱はいいとしても、ものの見事に違う曲になってましたね。
米国人であるフレミングにとって、最晩年のR・シュトラウスの境地など同情できないどころか、むしろ自業自得だと思っているのかもしれませんが。
「アラベラ」は未視聴ですが、来シーズンの新国公演の予習も兼ねて見てみようかと思います。
しばらくこのソプラノ歌手には好きにも嫌いにもなりきれないままになりそうです。
投稿: ジャンボ | 2010年6月25日 (金) 20時24分
ジャンボさん、
フレミングの魅力は声や歌の美しさではなく表現力や存在感といったものではないでしょうか。それも年齢と共に若さとコケティッシュさが増していく不思議な存在です。特に「アラベラ」(チューリッヒ盤)での彼女は素敵です。この映像盤で僕は「どうでもいい」から「好き」に切り替わりました。
投稿: YASU47 | 2010年6月26日 (土) 10時22分