ドニゼッティ・『愛の妙薬』@新国立劇場
久しぶりのオペラは新国立劇場にてドニゼッティの『愛の妙薬』でした。数あるオペラの中でも、最も軽く他愛のない作品のひとつですが、生き生きとした音楽の素晴らしさはモーツァルトやロッシーニにひけをとりません。とりわけ、随所で聴くことの出来る軽妙な掛け合いは心に染み入るようなベルカントアリアと相俟って聴く者を心地よさの中に包みこみます。
チェザーレ・リエヴィの演出による舞台は衣裳も含めてまるで現代アートのように明るく色彩的で洒落ていました。かといって所謂「読替え」ではなく、田園オペラへの登場人物たちの素朴さは、そのまま現代に持ち込まれています。”Elisir”(英語ではElixir)の巨大なアルファベット形状を利用した人の配置や出入りも斬新です。ただ、難を言えば、主役たちの身のこなしに動きが少なく、例えば小道具を使用するなり、振付けの工夫が欲しかったと思います。
ネモリーノ役のジョセフ・カレヤは先日、METライブビューイングのホフマン物語のタイトルロールで観たばかりでした。輝かしさよりも深みと落ち着きを感じさせる若干31才の若手テノールです。アディーナ役のタチアナ・リスニックはカレヤ夫人とのこと。ルーマニア出身の若手美人ソプラノで、Websiteによればこれまでスザンナ、ツェルリーナ等のスープレット役を主にこなしてきたようです。二人とも、これからの活躍に期待です。
新国立劇場の『愛の妙薬』といえば、2002年の公演が映像化されています。ネモリーノをゴッホに見立てていたのには若干の違和感もありましたが、一面の向日葵畑は鮮やかでした。サバティーニ(ネモリーノ)もさることながら、ルキネッツァ(アディーナ)が好演をしていました。
他にもDVD作品は多く、手元にはメトロポリタン歌劇場(1991)、リヨン歌劇場(1996)、ウィーン国立歌劇場(2005)などの映像があります。それぞれ、ブレーゲン、ゲオルギュー、ネトレプコという容姿と演技力に恵まれた魅力的なソプラノが豊かな表情と軽い身のこなしでおきゃんなアディーナを大好演しています。推薦盤はやはりリヨン盤でしょうか。まるでミュージカルのような明るい舞台の上で、素朴で哀れな役をやらせたら第一人者のロベルト・アリャーニャとその頃が旬のゲオルギューの息の合った掛け合いが聴きものです。
この数年、殆んど年に一回の新国立オペラです。すでに来シーズンのプログラムが発表になっていて魅力的な作品が並びます。とりわけR・シュトラウスの「アラベラ」が気になるなぁ。
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