『トゥーランドット』@METライブビューイング
今回のMETライブビューイングはプッチーニの『トゥーランドット』です。前回の「アイーダ」に続いて重量級の歌手たちと豪華絢爛な舞台装置に若干胃もたれ状態です。
この作品の主人公たちにはどうも感情移入することが出来ません。オリジナルの物語は12世紀のペルシャの叙事詩に遡るそうですが18世紀にイタリアで戯曲化され、それをプッチーニがオペラに仕上げたものです。ヴェリズモ(現実主義)作品を作ってきたプッチーニにしてはストーリーが荒っぽいだけでなく、大真面目な主人公のカラフにつけられた大仰な音楽(例えばあまりに有名な「誰も寝てはならぬ」)と噴飯ものの人格(自分のせいで犠牲になったリューを見殺しにしておいてまだ姫の追っかけか?)がミスマッチです。まぁ、オペラのストーリーにいちいち目くじらを立てていたらキリがありませんが・・・。
なお、プッチーニは癌のため1924年に、「召使いリューの自刃」のところまでを作曲したところで死去し、残りの部分はスケッチを元に弟子が完成させたとのことです。この作品はプッチーニにとっての「レクイエム」となりました。他のプッチーニ作品では聴くことの出来ない抒情的な合唱が散りばめられていますし、リューの美しいアリアには耳に心地よく響きます。
手元には同じMETで1987年に収録された映像作品(DVD)がありました。METではF・ゼフィレッリによるこの演出が30年以上続いているのですね。違いはトゥーランドット姫の衣装くらいでした。1987年版では超ドラマティック・ソプラノのエヴァ・マルトンがトゥーランドット姫の氷のような冷酷さを見事に歌い上げていました。一方、今回のマリア・グレギーナは性格的な冷たさというよりは権力者としての冷酷さを感じました。彼女がこれまで演じてきたアビガイッレやマクベス夫人のイメージが強すぎるからでしょうか?
今回のカラフ役のマルチェロ・ジョルダーニは容姿が1987年版の若きP・ドミンゴによく似ています(同じ衣装というせいもあるかもしれませんが)。ドラマ性ではドミンゴが、声の伸びではジョルダーニが勝るように感じました。また、今回の指揮者は31歳(らしい)のA・ネルソンスです。金管奏者出身という珍しい経歴の持ち主です。オケがあまり出しゃばらない演奏で好感が持てました。
案内役はパトリシア・ラチェット。昨年のライブビューイング「蝶々夫人」が好評だったようです。私は一昨年の「ピーター・グライムス」でのエレン役が印象に残っています。でも、仕切りの巧さとユーモアのセンスではやはりルネ・フレミングが上ですね。早く戻っていらっしゃい。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント