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2009年11月19日 (木)

野間宏・『暗い絵』とブリューゲル

91119 先日の朝刊(1115日日経新聞)に、「作家を魅了した絵①」という特集記事で野間宏の『暗い絵』とブリューゲルが大きく採り上げられていました。曰く、「野間宏がブリューゲルの画集と出会ったのは1935年、京大1年の時だった。絵の中の化け物のような暗い闇に取りつかれてしまう。戦争中、この画集を脇において小説『暗い絵』を構想する。」とあります。

私がブリューゲルの存在を知ったのも『暗い絵』によってでした(HPにも紹介しているように)。最も感受性の強かった学生時代にこの作品に出合い大きな衝撃を受けたのです。今回、本棚に長い間眠っていた「暗い絵」を再読してみて、改めてこの作品の持つ独自性と深さ、誠実さに感銘を受けました。

「草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ嵐が荒涼として吹きすぎる。」という出だしに始まるブリューゲルの画集の描写は、更に主人公の内面の言葉を通して数ページにわたって延々と続きます。まず、この長く、濃密で粘着質な描写に度肝を抜かれます。文体も独特で、その画集が大阪空襲で焼失する場面では一つの文章が600字にも及びます。それでも息が切れることなく、緊張感をもって一気に読ませてしまうのです。野間宏は『文章入門』という小冊子で、例えば、ある物体の描写をする際には四方向からだけではなく、色彩、匂い、時間軸、それを見る人物の精神状態、等々、あらゆる視点からの想像力を駆使し、それを文章化する訓練をアドバイスしています。この作家独特の文体と表現の緻密さの原点はここにあるようです。尤も、そのあまりの長さや時としての冗長さに一般読者としては辟易とすることもしばしばです。野間宏の長編作品(「真空地帯」、「わが塔はそこに立つ」、「さいころの空」、「青年の輪」)には時として忍耐も必要でが、それでも、それら作品の持つ、社会性と誠実さ、そして力は不変です。

野間宏は戦後文学を代表する作家というだけでなく、「狭山差別裁判」に関する著作も含めて多くの社会的発言も行っています。この作品は現代の読者にとっては若干「重い」のかもしれませんが、またぞろ、世の中がキナ臭くなりつつある時、かつての戦争前夜に若者たちが向き合った反戦へ正義感、絶望、挫折、更に、「しかたのない正しさ」に殉じて獄死していった仲間たちの運命への慟哭の思い、そして主人公の自我と自己の確立への決意には大いに共感するものです。この時代にあってこそ読み継がれることを願ってやみません。

  

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コメント

初めまして。mixi同級生で拝見しました。K高校出身です。わたしはkawai0925さん(HNはこちらでよろしいのでしょうか?)の2年後輩です。卒業時の担任は小田先生でした。今でもお付き合いがあります。これからも立ち寄らせていただくと思いますがよろしくお願いいたします。

投稿: carry | 2009年12月 6日 (日) 10時52分

Carryさん、
メッセージをありがとうございます。卒業後40年を超え、千葉に移り住みましたが、K高時代の友人たちとの付き合いはいまだに続いています。2年違いということは、渡り廊下などで何度もすれ違ったことでしょうね。
雑記帳のようなブログですが、またお立ち寄り下さい。

投稿: YASU47 | 2009年12月 6日 (日) 20時27分

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