北方謙三・『楊令伝』第11巻
北方「楊令伝」が11巻まで発刊されています。金の侵攻を受けた北宋の滅亡(1126年)と、南宋という形での存続、岳飛、張俊、劉光世ら軍閥の台頭、西に逃れた耶律大石による西遼の成立といった史実を背景にして、虚実織り交ぜたスケールの大きい北方ワールドが展開します。
童貫戦の勝利以降、梁山泊は一方的に戦いの矛を収め、日本や西域との交易を通じた領内の発展を模索します。「帝」を否定する梁山泊の在り方にはどこかに「12世紀の中国に共和国」ともいえる著者の意図的な実験的試みを感じます。租税率が10%(今の日本より遥かに安いぞ)という交易立国への道はユートピア思想のひとつと言えるのかもしれません。
しかし、所詮はユートピア、歴史に実現はしなかった梁山泊、ましてや北方ワールドの小説ですから、これからは北方「水滸伝」と同様、壮大な滅びに向かって突き進んで行くのでしょう。
この「楊令伝」が全何巻になるのかは分かりませんが(小説「すばる」でまだ連載中)、いまだに新しい登場人物も現れていて、一体どこで収拾するのかと心配にさえなります。一方、世代交代とはいえ、武松や燕青といった水滸伝以来、活躍していた主役たちの出番が減ってしまうのも残念ですね。
それにしても、かつてのハードボイルド作家、北方謙三はこの「水滸伝」シリーズや「三国志」だけではなく、今、同時並行的に「史記」にまで手を広げています。再構成力を武器にした中国歴史娯楽小説をこれからも楽しませてもらいましょう。
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