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2009年4月13日 (月)

『夢遊病の娘』@METライブビューイング

90413met いやぁ、さほど期待していなかっただけに満足度は一段と大きなものでした。もともと破綻しているストーリーゆえに自由な立場から小気味良く現代風に作り直すことで視覚的な面白さも増しました。「読み換え」演出といっても教訓めいた立場からではなく、あくまでもエンターテイメントの視点からのそれに徹底されています。

舞台を中世チロルから現代ニューヨークに移し、物語が劇中劇(リハーサル)という設定で進んでいきます。それ故、中世の物語が現代装束で歌われても違和感がないという訳です。しかし、次第に劇中劇とオリジナルの「夢遊病」の物語が交錯し、一幕の後半からは現実へとすり替わるのです。オリジナル作品に触れたことがないと理解に苦しむ場面もありそうです。でも、そんな時は洒落れた舞台美術を楽しみながらベルカント音楽に酔えば良いだけです。

そんな演出の小気味良さをいっそう引き立てるのがナタリー・デセイです。このようなベルカント作品ではデヴィーア等、イタリア系歌手に比べると歌唱では物足りなさを感じることもあります。またライブビューイングのアップ映像にも辛い年令にもなってきましたが、それを補って余りある演技力、身のこなし、そして表現力によって観る人を惹きつけます。通常では出演者たちにあまり動きを要請しない作品ですが、今回はデセイあってこその演出でしょう。

相方は昨シーズンのMET「連帯の娘」で共演したばかりのファン・ディエゴ・フローレスです。トニオ、マントーヴァ侯爵、今回のエルヴィーノと、どの役を演じても自己陶酔型のフローレス節になってしまいますが憎めません。周りの空気にお構いなく朗々と明るいハイテノールを響かせていました。ただ、難を言えば録音側でフローレスの場合だけは音圧レベルを下げてもらいたかったものです。新設備の「柏の葉」は「東劇」の音響よりはマシでしたがそれでも音割れ寸前でした。

90413sonnambula1_2 演出の面白さは上述した以外にもあちこちにあります。例えば、ニューヨークを舞台としただけあって、美術や小道具、衣裳はミュージカル風です。一幕の終わりで団員たちが舞台稽古用の台本や楽譜を引きちぎり、ここで劇中劇から本来の劇に移行したことが示されます。よく考えられた演出です。この劇中劇の破綻はプロンターの引っ張り出しによっても表現されています。オリジナルでは悪役となってしまい後味の悪さを残すリーザ役を活動的で魅力ある存在として引き立てています。勿論、ジェニファー・ブラックという若いソプラノの好演あってこそです。母親役も通常よりは前面に出てきて母子愛をうたいあげます。いつの間にかニューヨークには雪が降り始めました。アミーナはそんな屋外の高所を眠りながら彷徨います。スリルも現代的です。フィナーレではチロルの民族衣装での大円団となり、鮮やかで明るく、理屈抜きのハッピーエンドで会場を沸かせます。などなど・・・とても楽しめました。

指揮はイタリアの中堅、エヴェリーノ・ピドです。オーケストラが出しゃばることなく、ベッリーニの美しい音楽を職人芸的に聴かせてくれました。

尚、手元には2004年フィレンツェ歌劇場のライブDVDがあります。出演者はエヴァ・メイ(アミーナ)、J・ブロス(エルヴィーノ)他です。典型的なベルカント演出で歌唱は実に美しいのですが面白見には欠けます。もうひとつ、2004年に発売されたA・ネトレプコのTHE WOMAN – THE VOICEというビデオクリップ集の中にこの作品からの一曲が含まれていますが、ここでのアミーナはまさに売出し中のネトレプコの魅力が全開です(逆に言えばこの時がピーク?)。

今シーズンのライブビューイングも一作品だけを残すだけになりました。E・ガランチャの「チェネレントラ」・・・見逃せませんね。

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コメント

TBありがとうございました。

>一幕の終わりで団員たちが舞台稽古用の台本や楽譜を引きちぎり、ここで劇中劇から本来の劇に移行したことが示されます。・・・・
この劇中劇の破綻はプロンターの引っ張り出しによっても表現されています。

なるほど!そうだったのですか!
確かに2幕は“現実”で話が進行していましたね。
ただ、やっぱり全く初めてこのオペラを観る人が、この演出で観た場合、スイスの村の情景を語るところは「?」がよぎるでしょうね。
もちろん、嫌悪感を催すような演出ではありませんでしたし、すごく楽しかったですけど。

>またライブビューイングのアップ映像にも辛い年令にもなってきましたが、

そう、目のまわりの小じわが目立ってました
デセイ、疲れてるのかな~と思ったり。
でも、やっぱり彼女好きなんですよね~。本当にカワイイ
METのガラでヴィオレッタのアリアを観ましたけど、マリー・アントワネットのようでしたよ♪

今回、予習用にメイとブロスのDVDを買いました。
こちらのほうがオーソドックスなのですが、何度も眠くなってしまって....。
METでは字幕がなくても眠くなることはありませんでしたが。

投稿: 娑羅 | 2009年4月13日 (月) 23時03分

娑羅さん、
METのガラではデセイやフレミングを直接観られたということですよね。何と羨ましい!

今回の演出には否定的な評論も多いようですが、いかにもアメリカ的な改編でとても面白く感じました。舞台の美術、照明、カンパニーの一人一人の動きなど、ベルカントオペラというよりはまるでミュージカルのようでした。「連隊の娘」同様、DVD化されたらまた見たいと思っています。

投稿: YASU47 | 2009年4月14日 (火) 13時30分

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