映画・『チェ39歳 別れの手紙』
キューバ革命達成までを描いた前作、『28歳の革命』の続編です。前作と比べると、ボリビアの山岳地帯でのあまりに希望のない戦いです。期待していた民衆の支持は得られず、都市労働者との連携も成功せず、仲間たちと共に次第に孤立し追い詰められてゆく姿を淡々と描きます。ヒーロー物語からは遠い失意と敗北の記録です。
チェがなぜボリビアに現れたか、なぜ民衆の支持を得られなかったか?等の疑問や背景について、この映画では僅かしか語られていません。軍事独裁政権の打倒、抑圧からの解放、ラテンアメリカ・ナショナリズムの高揚、米国の帝国主義とソ連スターリン主義への抵抗、といった思想と現実の貧困や生活レベルとのあまりに大きな乖離が失敗の背景でした。「ゲリラはキューバからの外来勢力」という政権側のキャンペーンも功を奏したようです。民衆の共感と支持なしに武装闘争の成功はあり得ませんでした。
先日おりしも、NHKハイビジョンで放映されていた『モーターサイクル・ダイアリーズ』という映画を観ました。22歳の医学生、エルネスト・ゲバラが年長の親友と共にオンボロバイクに乗って南米大陸横断の冒険旅行に出かける物語です。この映画も彼の日記に基づいた実録風の作りで、ある意味チェ・ゲバラの三部作とも言える作品です。この旅で山岳農民の貧困、鉱山労働者の悲惨、隔離されたハンセン病患者施設などに接し、チェは「自分自身が根本的に変わった」ことを自覚します。自らの拠って立つ位置を明確にしたのです。
この旅行(1951-2)の後、チェは医学部を卒業し、再び南米各地を旅行します(1953-)。その時にボリビアで農地改革の現実を目撃したことが、ボリビアを次の革命の地に選んだ背景としてあるようです。こうして中南米各地を再放浪した後にメキシコで亡命中のフィデル・カストロとの運命的な出会いをするのです。
『28歳の革命』、『39歳 別れの手紙』、更には『モーターサイクル・ダイアリーズ』も含めて、映画として物語に起伏がある訳ではなく、戦闘シーンの画面を売り物にするものでもなく、ヒーローを創り上げて賛美するものでもなく、何らかの政治的メッセージを発信するものでもありません。チェのその時々の姿を、彼の眼に映った南米の風景や出会った人々の表情を交えて淡々と描くことで、一人の稀有の革命家へ挽歌を捧げると共に、今を生きる政治家や人々に信念と何かということを突き付けているような気がします。
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