『タイス』@METライブビューイング
遅まきながら、今シーズン最初のMETライブビューイングは美しいメロディに溢れるマスネの『タイス』でした。演出、舞台装置、衣裳、そして出演者の豪華さはさすがメトロポリタン歌劇場です。
ライブビューイングも今シーズンからは一週間を通じての上映となり、週7回とはいえ、昨シーズンの週1回だけの上映に比べれば遥かに機会が増えました。ただ、これまで通っていた「柏の葉」の上映開始時間が午前10時というのはいただけません。『サロメ』のように生首と血にまみれた女の惨劇を朝から見ようという気分にはなれないでしょう。やはりシネコンからすれば異端扱いなのでしょうか?尚、今回の『タイス』は東劇で観ました(18時40分開始)。
もう一つの不満は「音響」です。さすがにドルビーサウンドではないものの、巨大スピーカーからの大音響はオペラの命ともいうべき声が割れることもしばしばです。音は大きければ良いというものではありません。
とはいっても、これまで都合6回のライブビューイングは毎回大いに楽しませてもらいました。前述したように、外面のみならず内容的にも豪華で、現代オペラ芸術の粋を聴かせ、見せてくれるからです。
さて、今回の『タイス』もその例外ではありません。この作品はこれまで上演や映像での鑑賞機会もなく若干不安だったのですが、それは全く杞憂に終わり大きな満足感を得ることが出来ました。あまりも有名な「タイスの瞑想曲」のみならず美しいアリアや重唱が多く散りばめられ、音楽そのものを大いに楽しむことが出来ます。その瞑想曲も何度か登場し、劇中でこそ美しいメロディがいっそう心に響いてきます(「私のお父さん」が「ジャンニ・スキッキ」の劇中でこそ活きてくるように)。
出演者では何といっても主人公のタイスを演じるルネ・フレミングの素晴らしさです。前にも書きましたが、彼女は年を経る毎に若返り、かつスリムになっていくようです。例えば、手元にある1994年グラインドボーンのフィガロ伯爵夫人の映像版ではむしろ実年令(当時35才?)以上に老けて見えますし、歌にも情感がこもりません。以来、この歌手への興味を感じることはなかったのですが、2007年チューリッヒの「アラベラ」で評価は一転です。何故彼女がMETの女王たる所以かを遅まきながらも思い知った次第です。フレミングは決して美声の持ち主とはいえず、歌唱のテクニックや安定性において他のソプラノたちよりも特に優れているという訳ではありません。しかし、中音域を中心とした深みのある声と表現力、更に表情や演技力から滲み出る知性によって抜群の存在感を示すのです。
相手のアタナエル役はトーマス・ハンプソンです。アメリカを代表する2大歌手による競演と豪華な舞台はこの作品がフランス製であることを忘れさせます(勿論フランス語公演ですが)。恐らくは作曲者の意図を越え、マスネのというよりはMETの『タイス』なのでしょう。それもメタボ気味(^^;)の・・・。しかし一時の悦楽を求めて劇場や映画館に足を運ぶ人々の期待を裏切ることは全くない筈です。残るライブビューイング上演も出来る限り楽しむこととしましょう。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
TBありがとうございました。
>音は大きければ良いというものではありません。
確かに。今回は特に、バリバリと音が割れるのが気になりました。
特に、ハンプソンが歌ってる時。
フレミングは本当にきれいになりましたね。
あんなにぱんぱんに太っていたのに(笑)
投稿: 娑羅 | 2009年1月28日 (水) 23時21分
娑羅さん、
最近のフレミングについては娑羅さんのブログでも
同じ評価をされていたので嬉しいです。特にR・シュトラウスやマスネのような独仏系の近代ロマン派作品が似合うのかもしれませんね。
投稿: YASU47 | 2009年1月29日 (木) 14時05分