縮小を続けるアラル海
かつて世界第4位の湖沼面積を有したアラル海が縮小を続け、今や瀕死の状態にあります。地球最大規模の環境破壊のひとつとして世界中からも多くの懸念が寄せられています。先日、NPO法人「日本ウズベキスタン協会」にてこの問題に長らく関わってこられた東京農工大の川端良子準教授のお話を聞く機会がありましたので報告します。
衛星写真は2004年に撮影されたものです。黒い線は1950年時点での海岸線です。1960年代から縮小を続け、今では面積、貯水量ともに当初の四分の一以下に減少しています。海外線は180キロメートル以上後退しました(一日平均約10メートル以上!)。かつては湖底であった砂漠には多くの漁船や貝殻が取り残されています(下の写真)。
原因は1950年代から始まった上流地域での大規模灌漑です。ソ連邦時代に綿花の一大生産地として位置付けられたウズベキスタンは独立後の今も綿花は最大の外貨収入源として国策上の最重要生産物のひとつなっています。加えて、周辺国を含めた人口の増加と社会の発展に伴う、工業用水、都市生活水、緑化灌漑水をアラル海に注ぐ2大河川(パミール山系を源流とするアムダリヤ、天山山系を源流とするシルダリヤ)からの取水に頼ったため、ついにはアラル海への流入量が蒸発量を大きく下回ったのです。砂漠地帯を横切る灌漑や開発のための運河が無造作な素掘りであったことも大量の水が砂漠に無駄に吸収されていくことの一因となりました。
結果として、アラル海の大部分は干上がり、塩分や重金属濃度が上昇し、漁業は壊滅し、地域住民の雇用と健康問題を引き起こし、周辺土壌は塩害に侵され不毛の地と化しました。
アラル海はシルダリヤが流入する北の小アラル海(カザフ領域)とアムダリヤが流入する大アラル海(カザフとウズベク)に分裂し、大アラル海は更に東西に分裂し、水深のない東側はほとんど消滅しかかっているのが衛星写真からもよく覗えます。
カザフ側は小アラル海だけでも救おうとシルダリヤ側の流量回復に努め、更に大アラル海への流出を防ぐために大規模堤防を完成させました(2005年)。それが功を奏し、現在では回復傾向にあるとのことです。
一方、大アラル海(特に東側)に関しては消滅は止むなしというのがウズベク政府の基本姿勢のようです。綿花栽培をはじめとするアムダリヤ流域での農業や都市部への水供給を犠牲に出来ないこと、干上がった湖底からのガス開発が開始され、新たな国家収入が見込まれることなど国家としての生存を優先せざるをえないことが理由です。また例え、莫大な投資により流入量を増加させたとしても、いったん破壊された生態バランスは復帰しないだろうという科学的見解もあります(例えば、カルシウム類を取り込んでいた貝類の絶滅による生物濃縮機能の不全)。
どうやら心情的な願いには反するも、かつてのアラル海の回復は「不可能」であるという前提の上で、環境と開発のトレードオフという現実を踏まえながらの解決策を探っていくしかなさそうです。植林活動(耐乾性、耐塩性に優れたサクサウールの木)、流域灌漑施設や運河の改良、綿花依存からの脱却(小麦等への転換)、工業設備における排水の再利用等々・・・。
私自身も10年以上にわたるこの国の開発分野との関わりの中で大量の水資源の恩恵を蒙ってきたことで、決して他人事ではない痛みを感じます。地球全体に求められている「持続可能」な発展への知恵と行動がここでも必要とされています。
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