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2008年6月29日 (日)

金丸葉子・『シャコンヌの情景』

80629kanamaru_2  ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)のヴィオラ奏者、金丸葉子さん(アムステルダム在住)のデビューアルバムがリリースされました。『シャコンヌの情景・ヴィオラによる300年の回顧』という表題が示すように、バッハから現代に至るまでのシャコンヌ演奏の変遷を辿る試みに挑戦されています。納められている楽曲は以下です。

1.    J.S.バッハ「シャコンヌ」

2.    ヘンデル(ハルヴォルセン編曲)「ヴァイオリンとヴィオラのためのサラバンドと変奏曲」

3.    リゲティ「無伴奏ヴィオラソナタ」

4.    ビーバー「ロザリオのソナタ」より「パッサカリア」

5.    ヘンデル(ハルヴォルセン)「ヴァイオリンとヴィオラのためのパッサカリア

6.    野平一郎「バッハのシャコンヌによる4つヴィオラのためのトランスフォルマシオン

シャコンヌ、サラバンドとその発展形のパッサカリアは僕ら音楽素人には全く区別がつきませんが、元々は16世紀頃にスペイン文化圏で生まれた舞曲が起源であろうと言われています。低音反復が特徴で、代表的な曲といえば、このアルバムの最初にも納められているバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番」の終曲に加えて、ベートーヴェンのピアノ曲「創作主題による32の変奏曲」、ブラームスの交響曲第4番」の終楽章等などが良く知られています。

このアルバムではバロック時代からはバッハとヘンデル、ビーバー、近現代からはハルヴォルセン、リゲティ、日本人作曲家からは野平一郎の作品が選ばれています。ヴィオラという楽器は決して派手な存在ではなく、オーケストラの中でもこの楽器が主旋律を主張することは稀です。加えて、このアルバムでは学術的探究も含めた選曲がなされており、決して耳に心地よい響きや旋律ばかりを奏でてくれるわけではありません。しかし、バッハの作品群がそうであるように、じっくりと聴き込むほどに味の出てくる不思議なアルバムとなっています。器楽曲の多くがそうであるように内証的で、楽曲そのものに向き合う緊張感もまた良いものです。

数曲で共演しているのがRCOのコンサートマスター、リヴィヴ・プルナール氏です。昨年、来日して金丸さんとの共演リサイタルを開催しました。金丸さんには今後もRCOやサイトウキネンオーケストラ、諸リサイタルでの活躍にとどまらず、更に録音を重ねてもらいたいものです。

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2008年6月21日 (土)

映画・『おいしいコーヒーの真実』

80621coffee1_2 皆さん、コーヒーはお好きですか?僕の場合は味覚や豆の種類判別能力にはかなり欠けるものの、一日に数杯は口にする大のコーヒー党です(もっぱら自販機ですが(^^;))。

さて、ドキュメンタリー映画『おいしいコーヒーの真実』を観てきました(渋谷UPLINKにて上映中)。この映画のキャッチコピーに惹かれたからです。

「コーヒー一杯330円、コーヒー農家に支払われる金額は?」

答えは、「小売業者と輸入業者296円、輸出業者と地元の貿易会社23円、コーヒー農家3-9円」だそうです(映画のHPより)。

この数値は映画が製作されたイギリスでの調査結果です。一方、日本の1998/1999年の統計調査によると、東京の喫茶店のタンザニア産キリマンジェロコーヒー平均価格419円のうち、喫茶店381円、日本の輸入、焙煎、小売業者34.4円、タンザニアの流通、輸出業者2.1円、コーヒー農家1.7円(実に0.4%!)というデータがあるそうです。

この映画ではモカコーヒーで知られるエチオピアのコーヒー農協連合会の活動を通じて、消費、流通、貿易、価格設定過程、そしてコーヒー農業に携わる人々の貧困生活を追うことによって、世界の現実の一端を描きます。前に見た「ダーウィンの悪夢」と類似のコンセプトですが、比べると表現は本編の方がはるかに穏やかである一方、題材は私たちの日常生活との結びつきがとても強く、考えさせられる作品です。

映画の中で製作者やエチオピア農協の人々が訴えるのは「フェアトレードによって妥当な対価での買い上げを」ということに尽きます。エチオピアに限らず貧困にあえぐ国々は緊急食糧援助に依存せざるをえない状況に置かれていますが、真に必要なのは先進国による搾取体制の維持ではなく、公正な取引を通じた農業や各種産業の自立であることを訴えています。

ちなみにフェアトレードに関しては検索すると多くのWeb Siteが見つかります。今、世の中は環境に配慮したグリーン購入が盛んになりつつありますが、併せて、搾取や児童労働、環境破壊等を排した途上国との関係を築いていければとおもいます。コーヒーに関したフェアトレード販売店やカフェはこの映画HPLINKからも辿ることが出来ますし、皆さんの地元でも見つけることが出来るでしょう。

最後に映画のパンフレットからコーヒー<豆>知識を幾つか紹介しましょう。

・世界市場にてコーヒーの年間売上高は800億ドルで石油に次ぐ巨大貿易商品

・世界でのコーヒー農業従事者は2500万人以上

・日本はアメリカ、ドイツに次いで世界第3位の輸入国

・エチオピアはコーヒーの原産国で、国の輸出額の67%を占める

・日本でのレギュラーコーヒーでのフェアトレードのシェアは0.2%程度(イギリスでは約2割)

さて、一週間ぶりのblogも書き終わったことだし、キリマンジェロでも淹れて(あ、手元にあるのはフェアトレードのものではないぞ)、一息つくことにします。

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2008年6月14日 (土)

『梁山泊』遂に陥落す

北方謙三の「水滸伝」全19巻(文庫本)を読了しました。12世紀中国、北宋時代の反乱を題材としたこの通俗物語には12世紀末の原本から現代に至るまで数多くの版があります。北方謙三はそれらの時代背景と英傑たちの名前はそのままに、全く新しい水滸伝を創作しています。

私が初めて水滸伝に接したのは小学生高学年の時代です。青少年向けの簡易版(吉川英治版のダイジェストだったのかもしれません)とはいえ、108名の英雄たちは洩れなく登場し、何度も読み返すことで宋江、晁蓋、呉用、林沖、史進、武松といった好漢たちの名前はすっかり頭に染み付いていました。それ以来の梁山泊ファンなのです。加えて、PC盤シュミレーションゲームの「水滸伝」もたっぷりと楽しませてもらいました(^^;)

北方水滸伝は物語そのものを大きく骨太に組み立て直すと共に108名を超える登場人物それぞれの異なった個性を実に丁寧に描き、全く新しいエンターテインメント作品に仕上げました。主要な逸話やトピックスは残しつつも、そもそも結末(原本では朝廷に帰順)や個々人の運命までを大きく変えています。しかし、だからこそ、この物語が現代の読者、しかし、おそらく主に男性読者にとってのみ、の前に新たに蘇ったともいえるでしょう。とにかく、実にスピード感に溢れた男たちの反乱物語です。

北方謙三は「水滸伝」の続編としての「楊令伝」を創作中です(すでに5巻まで発売中)。壮烈な死を遂げる英傑のひとり楊志の遺児、楊令による再反乱の物語だそうです。原本に楊令は存在しませんが、自由な北方ワールドの拡がりです。これも文庫本になってから読むことにします。

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2008年6月 8日 (日)

FoE Japanによる環境活動

FoE (Friends of the Earth) Japan100万人以上の会員を有するFoE Internationalの一員として1980年から活動を続けている環境NGONPO法人)です。日本においては約600名とかなり少ない会員(サポーター)数ですが、スタッフを中心としたその活動範囲は極めて多岐にわたっています。

今日(6月7日)は、そのFoE Japanの年度総会に参加してきました。この環境NGOの特徴はとりわけ地球環境の問題を国際的視点から一般市民のみならず企業や政府機関に対しても働きかけを継続していることです。他の環境NGOと協力しながら政府機関との協議の場も多く設けています。2007年度の主な活動分野を挙げてみますと以下のようになります。

1.  森林プログラム

2.  砂漠緑化プロジェクト

3.  ロシアタイガプロジェクト

4.  気候変動とエネルギープログラム

5.  くらしとまちづくりプログラム

6.  開発金融と環境プログラム

これらのいずれのプログラムにおいても会員参加型の現地調査や学習に加えて、関係省庁や企業への政策提言を活動のひとつに据えており、現実を見据えた実効性のある解決案を模索しています。私にとってはこれまで携わってきた仕事柄、6番目のプログラムの中の一課題である化石燃料開発プロジェクトが環境や気候変動に与える影響がとても気になるところです。

今年度は洞爺湖でのG8サミットを目前にして各国が地球温暖化問題で足並みを揃えることが出来るかどうかが問われています。昨年のIPCC4次報告書では2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を50%以上削減せねば地球は壊滅的な打撃を受けることを警告しています。G8サミットにおいては圧倒的な経済活動によって気候変動現象を引き起こしてきた先進諸国の責任と行動が大きく問われています。予想される洪水、水不足、感染症の拡大等によってまず被害を受けるのは発展途上国の人々であることも忘れてはならないでしょう。先進国における規制の強化と排出の削減(炭素税の導入も含め)に加え、途上国被害の緩和政策も重要です。

地球温暖化の問題は理解に一定程度の努力を必要とすると共に、掴みどころの範囲が広く、また実に実践の難しい課題です。でも、ひとり一人は「微力ではあるけど無力ではない」ことを旨としてこの問題に向き合っていこうと思います。

FoE Japanの活動は以下のWeb Siteで詳しく紹介されています(左のロゴからもリンクされています)。

http://www.foejapan.org/

皆さんもそれぞれに更なる一歩を踏み出してみては如何でしょうか。

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