『連隊の娘』@METライブビューイング
今シーズンのMETライブビューイングも最終回となってしまいましたが、ナタリー・デセイを始めとする出演者たちによって最高のパフォーマンスを楽しませてくれました。「連隊の娘」はドニゼッティの他のブッファ(喜劇)作品、「愛の妙薬」や「ドン・パスクワーレ」と同様に軽妙さと洒落っ気に溢れるだけでなく、美しいベルカント・アリアも満載の作品です。
この舞台の盛り上がりがN・デセイの快演・怪演にあることは論を待ちません。自分でもオペラ「女優」であることを公言して憚らない彼女ですが、一方で世界屈指のコロラトゥーラの声と技術にもただ感嘆させられるばかりです。最後には息切れ気味になるまで舞台を縦横に動き回っていました。インタビューで「観客席から笑い声が聞こえるのが嬉しい」と答えていましたが、演技への執念には凄味さえも感じます。それはコメディ作品に対してだけでなく、ルチアや「ハムレット」のオフェリアの悲劇的な狂乱場面では一層の迫真の演技で観る者を圧倒します。
手元にある「連隊の娘」はスカラ座の映像盤(1996年)です。M・デヴィーアが美しくも正確無比のベルカントを聴かせてくれます。年令にもめげず、一生懸命コメディンヌを演じるところがいかにも真面目なデヴィーアらしいところです。デセイはそんなデヴィーアの壁をいとも簡単に乗り越えてしまいます(元々のキャラクターの違いでしょうが)。この演出と映像の時代、演技力に優れたオペラ歌手は大勢出現していますが、デセイの場合はあまりにも飛び抜けた存在であることを今回改めて思い知った次第です。
一方のファン・ディエゴ・フローレスのテノールの輝かしい美声には男性である僕もただ聞き惚れるだけです。しかし、あのナルシストぶりはどうにかならぬものかとも思ってしまうぞ・・・。舞台でほとんど動かず、もっぱら自分の出番のために力を蓄えるというのもベルカント歌手こその特権かもしれません。
A・コルベッリやF・パーマーといったベテラン助演陣もすでに多くのブッファ役でお馴染みです。パーマーは先日の『ピーター・グライムス』でも好演していましたね。
ローラン・ペリーの演出は一連のオッフェンバックの作品(「天国と地獄」「美しきエレーヌ」「ジェロルスタン大公妃殿下」)でのバレエ要素を取り入れた大胆な演出に比べるとオーソドックスでした。
マルコ・アルミリアートという指揮者は初めて聴きますが、ともすれば鳴り過ぎるメトのオケを如何にもドニゼッティらしく軽妙に歌わせていました。好感度大です。
ついに今シーズンのMETライブビューイングも終わってしまいました。簡単にはMETに飛んでいけない身分にとってはとても嬉しい企画でした。今回観た5作品(『ヘンゼルとグレーテル』『マクベス』『ピーター・グライムス』『ラ・ボエーム』そして『連隊の娘』)はどれもがとても楽しむことが出来ました。早くも来シーズンが楽しみです。ゲオルギューの『つばめ』、ネトレプコの『ランメルモールのルチア』、デセイの『夢遊病の女』、そして、やったぁ!ガランチャの『チェネレントラ』・・・どれも見逃せません。ん?やっぱり「オジ・ファン・トゥッテ(おじさんは皆こうしたもの)♪」です(^^;)
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コメント
TBありがとうございました。
、私はフローレスよりも彼女の印象が強かったです。
いや~、デセイすごかったですね~。
実はここだけの話
もちろん、フローレスは素晴らしいのですが、やっぱり先輩のほうが一枚上手だった・・って感じでしょうか。
来シーズンも美女ぞろいで、男性ファンにはたまりませんね♪
私もYASU47さんが挙げていらっしゃる作品は期待していますが、もう1作品。
レリエーがメフィストを歌う『ファウストの劫罰』は、すっごく楽しみにしています
ホロストフスキーの『トロヴァトーレ』が上映されないのは、本当に残念ですが・・・・。
女性も同じようなものです♪
投稿: 娑羅 | 2008年5月12日 (月) 23時51分
娑羅さん、
ホント、METは美女集めに奔走しているようです(そろそろプティボン嬢にも登場願いたいなぁ・・・)。
でも、モーツァルトが少ないですねぇ。アメリカ人好みではないのでしょうか?
ホロストフスキーの『トロヴァトーレ』と言えば、前にNHK放映を録画したコヴェントガーデン盤(2002年)を何度か見ました。ホセ・クーラ共々格好良いですね。
投稿: YASU47 | 2008年5月13日 (火) 22時25分
こちらの紹介を読んで、おもしろそうだったので、
ネットでコヴェントガーデンのとウィーンのを視聴しました。ほんとにおもしろかったです。今まではどうも
退屈で、途中で挫折、早送りでした。はじめてこのオペラがたのしめました。ありがとうございます!!
TBしますので、よろしくお願いします。
投稿: edc | 2008年5月21日 (水) 17時35分
edcさんにも楽しんでいただけて嬉しいです。ナタリーの一挙一動には目が離せませんよね。彼女を見て、聴いているだけで楽しい気分に浸ることが出来ます。巧い歌手、感動を与える歌手は大勢いますが、こんなにも人を幸せな気持ちにさせる歌手って他にいるでしょうか?
投稿: YASU47 | 2008年5月21日 (水) 21時50分