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2008年4月20日 (日)

映画・『赤貧洗うがごとき』

80419shozo_tanaka 明治時代に起こった足尾鉱毒事件を描いたドキュメンタリー映画、『赤貧洗うがごときー田中正造と野に叫ぶ人々』を千葉市内の自主上映会で観てきました。

足尾鉱毒事件とは明治中期に起き、今もなお深い傷跡が残る、公害の原点ともいうべき出来事です。日清、日露の二つの戦争を背景として富国強兵政策に突き進んだ日本の政府と軍需産業が足尾銅山からの鉱毒で渡良瀬川流域を汚染し、人々の命と多くの村々を破壊した事件です。犠牲者は1899年(明治31)の発表では1064名となっていますが、汚染は渡良瀬川流域に大きく広がると共に、銅山からの大量の亜硫酸ガスの排出により付近の森林を壊滅させ洪水を引き起こしています。更にこの問題を大きく社会化させたのが下流域住民の強制的な移住です。最後まで抵抗した谷中村はついに遊水地の下に沈められました。

この住民運動に果たした田中正造の役割の大きさについてはもはや繰り返す必要もないでしょう。国会(帝国議会)での追及、天皇への直訴、土地収用への抵抗、更には利根川水域を含む流域調査等に生涯をかけ1913年(大正2)に71歳の生涯を閉じました。

さて、映画です。田中正造の半生を描いたドキュメンタリーですが、人物のみならず、背景の足尾鉱毒問題の掘り下げが中途半端になってしまった印象を拭えません。恐らくは田中正造という人物を通して現代の社会、環境問題へ取り組むにあたっての視点や心構えを訴えたかったのでしょうが、このような大きく、深い課題を90分強の作品にまとめること自体に無理があるのかもしれません。また製作費の制限による演出や映像効果の不足が目立ったことも残念でした。

田中正造を採り上げる時には、往々にして彼の極めて個性的かつ自己犠牲的な生涯を半ば神格化してしまうことにより、その偉大な功績をかえって人々の日常的な生活や思考から遠ざけてしまうという逆効果を感じます(彼自身にとっては極めて不本意なことでしょうが)。現在においてもその不屈な精神と行動は語り継がれていますし、北関東における正造人気は根強いものがあるようですが、彼の生き方を真似することは困難であり、自らの生き方への何らかのヒントを得ることが出来れば善しとすべきなのでしょう。

正造は足尾鉱毒事件について政府、権力、古川資本等に対して徹底的に戦うと同時に帝国議会や著書にて自らの反戦・平和・人権への信条を訴えています。日清・日露戦争の時代に「戦争は罪悪である」「日本を筆頭に世界の軍備は撤廃すべきである」等々の主張を一貫して述べています。日露開戦前夜の「軍国に借りて社会を蹂躙し、私欲をたくましゅうとする悪魔を撲滅し、国民は国民としての権利、人道を保全することに努めよ」という正造の言葉は現代にもそのまま当てはまるのではないでしょうか?

足尾銅山は1973年に閉鎖されましたが、その汚染の爪痕は今日もなお深く残っています。堆積された廃棄物(銅、ヒ素、カドミウム、選鉱滓等)は大雨のたびに渡良瀬川に流出し、枯れ上がった森林は元に戻りません。足尾は戦後、水俣、阿賀野川、四日市等の各地で発生した高度成長期の公害問題の原点であると共に、三里塚等に見られるような権力による土地収用への戦いの先駆け的な運動でした。公害問題は、現代においては更に温暖化問題を含めた地球環境問題として私たちの生存権そのものが脅かされている状況に拡大しました。再び正造の『真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし』という言葉を肝に命じながら、私たちが足尾から学ぶことはまだまだ多そうです。

最後に手元にあった本の紹介をします。

公害言論I(宇井純、亜紀書房)

1970年代初めの宇井純による東大の公開講座での記録です。技術的問題に加えて、田中正造の活動の紹介を中心にした運動論を展開しています。

谷中村滅亡史(荒畑寒村、新泉社)

田中正造からの聞き取りを中心とした社会的視点からのドキュメント。躍動感に溢れた、著者20歳の時の作品。若き社会主義者としての面目躍如です。

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コメント

独身時代に、一人で足尾の廃鉱の脇をドライブしてきたことがありました。
田中正造の著書は、以来、読まなければと思いつつ、ずっとてにせずにきてしまいました。

読まねばならんなあ。

投稿: ken | 2008年4月25日 (金) 07時37分

kenさん、
足尾精錬所跡は幾つかのWEBサイト写真で見ると今でも残骸をそのままに留めているようです。新緑の渡良瀬川流域の中で、そこだけが異次元の世界なのでしょうか?一度訪ねてみなくては・・・。

投稿: YASU47 | 2008年4月26日 (土) 12時27分

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