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2008年3月31日 (月)

『ピーター・グライムズ』@METライブビューイング

80330petergrimes_3 3回目のMETライブビューイングはブリテンの『ピーター・グライムス』です。19世紀初頭のイングランド東海岸の小さな漁村を舞台にしたこの現代オペラは幕を追うごとに物語、そして音楽に引き込まれていきます。排他的な村人たちと粗野な漁師、ピーターとの間で深まる対立はやがて取り返しのつかない悲劇へと至ります。

演出のジョン・ドイルはミュージカルの演出も手掛けるそうです。出演者たちの動きは決して身軽ではないのですが、音楽の力と相まって緊張感に溢れたドラマを作り上げています。村人たちの黒装束や主要出演者たちの汚れ、朽ちた衣装が貧しい漁村であることを表わしています。男たちの労働の辛さや女たちの絶望が合唱を通じて訴えかけてきます。舞台の両側からせり出す暗く高い壁は村の閉鎖性を表わしています。そこから覗き見をしたり噂話を振りまく村人たち・・・。悲劇の後、ラストシーンで壁が取り払われ、そこが広々とした海であったことを知ります。

ドナルド・ランニクルズという指揮者は初めてです。風貌はどことなくトスカニーニを思わせますがスコットランド出身とのこと。とてもきびきびとした指揮ぶりで鋭く引き締まった音を引き出しています。データはほとんど無いのですが最近、欧米でワーグナー指揮者として活躍しているようです。とても魅力的で今後も注目してみたい指揮者です。

ピーター・グライムスを歌っているアンソニー・グリフィーはこの役の第一人者とのことです。2002年の小沢/サイトウキネンによる松本での上演の際にもタイトルロールを歌っていたとのことです。高音がよく伸び、劇的表現に秀でた素晴らしいヘルデン・テノールです。

共演のパトリシア・ラチェット(エレン)の感情を抑えた静かな佇まいや芸達者なフェリシティ・パーマー(セドレイ夫人)、ジル・グルーブ(酒場の女主人)といった脇役たちも素晴らしい歌唱と演技を披露してくれます。

そして更に素晴らしいのが合唱です。決して、耳に馴染み易いメロディを奏でるのではないのですが、管弦楽と共にドラマの緊張感を思い切り盛り上げます。村人たちの苦しさや絶望、怒り、攻撃性といった感情を表現する一方で潮風の優しさや人々のやり場のない哀しみを歌います。

METシリーズ、今回も良い作品を観ることが出来ました。今シーズンも残るは僅か三作品です。次回の「トリスタンとイゾルデ」は5時間35分の上演時間です。ワグネリアンではない僕にとっては辛いかなぁ?

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コメント

「ピーター・グライムズ」は、管弦楽曲を抜粋したモノを聴いたきりで、興味は常にあるのですが、どんな演奏に手を出したら良いものか、まだ見当を付けかねています。

「トリスタン」は、配役によっては映像ではがっかりするかもしれませんが、「指輪」に比べれば音楽は格段に出来が良く、目をつぶって音楽だけ聴いた方がましだったりします。。。(言葉がわからなくても情景が想像できるので、ビックリした記憶があります。)
第2幕が、いちばん美しいかな。

まあ、途中で眠っちゃってもOKくらいで。。。

投稿: ken | 2008年4月 1日 (火) 23時38分

kenさん、
「ピーター」を聴くのは私にとっても初めての体験でした。、映画館の大画面映像と挨まった迫力(特に合唱)に圧倒されました。純音楽として聴く、あるいは舞台を見ると印象は変わるのかもしれませんが・・・。

はっきり言ってワグナーは苦手なのです。前にドイツの劇場で「タンホイザー」を観た時には、やはりほとんど目をつぶって管弦楽だけに集中していました。歌手や合唱団に動きがないこととゲルマン精神世界が理解出来ないことが辛いからです。

投稿: YASU47 | 2008年4月 2日 (水) 21時44分

第2次大戦のときは、
「ゲルマン精神と我が日本の精神はあい似たり!」
なんて調子だったかもしれませんが、なおかつ、日本人の聞く西欧クラシック音楽はドイツものがダントツで多いですが・・・

ゲルマン精神での「演技」は、本音でいうと、鬱陶しいですね。。。

投稿: ken | 2008年4月 3日 (木) 08時27分

kenさん、
あは、そこまで仰いますか(^^;)?
鬱陶しさを通り抜けるとワグネリアンの危ない世界が待っているのでしょうけど、凡人にはなかなか辿り着けそうにもありません。

投稿: YASU47 | 2008年4月 3日 (木) 22時36分

YASU47さん、TBありがとうございました。
TBの件では、いつもご迷惑をおかけしてすみません。
TBは、スパムを警戒して、管理人が承認するまで保留扱いになっているんです。

一本の映画を見てるような、素晴らしい作品でしたね。
でも、映画のように感じられたってことは、それだけキャストや指揮者、全てが一流だったってことでしょう。
演奏や演技がまずければ、やっぱり物語には入り込めませんものね。

投稿: 娑羅 | 2008年4月 3日 (木) 22時40分

YASUさん、こんばんは。
映画館でオペラ鑑賞はなかなかにいいものですね。
さすがにポップコーンはそぐわないですが、ビールを飲んでしまうことも可能ですから(眠くなりかねませんね)
マクベスやヘンデルとグレーテルも行かれたのですね。

ラニクルズは、もっと注目されていい指揮者だと思います。
ワーグナーとシュトラウスでは第一人者となってますし。
次週のトリスタン、長丁場ですが、D・スミスのトリスタンに注目です。きっと楽しめますよ。
そして、次週は「プティボン」ですね!

投稿: yokochan | 2008年4月 4日 (金) 00時51分

娑羅さん、
TBの件、今回も早とちりをしてすいません。
この作品の演劇性はやはりシェークスピアの国ゆえのことだからでしょうか?ミュージカルにしてもロンドン発のそれはドラマ性に満ちていますものね。

投稿: YASU47 | 2008年4月 5日 (土) 21時20分

yokochanさん、
そうなのです。ライブビューイングの良い点のひとつは快適で気楽なシネコン環境(特に柏MOVIXはガラガラ)ですよね。来年のシーズンはヨーロッパの劇場公演も含めて拡がることに期待です。

プティボン、来週なのですねっ!?都合が不明だったのでチケットは購入していませんでした。yokochanさんのblogでの報告をお待ちしています。

投稿: YASU47 | 2008年4月 5日 (土) 21時28分

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