『ヘンゼルとグレーテル』@METライブビューイング
2008年1月1日のメトロポリタン歌劇場公演『ヘンゼルとグレーテル』を観てきました・・・といってもNYまで出かけてきた訳ではありません。MOVIX柏の葉でのライブビューイング(LV)です。
いやぁ、面白い世の中になりました。つい2週間前のMET公演を大スクリーンと6チャンネル音響で楽しめるのですから・・・。
このMET LVはこれからもほぼ定期的に各地の映画館で上演されます。詳しくは以下のサイトにあります。見逃せない作品が続きますね。
http://www.shochiku.co.jp/met/index.html
願わくば、ヨーロッパの主要劇場にも見習ってもらい、更に多くの映画館で上演してもらいたいものですが、今回、客席はまばらでした。せめてMETの継続を願うことにします。
さて、上演に先立ってMETの客席風景がざわめきと共に映し出されます。雰囲気が盛り上がってきたところで、楽屋裏のインタビューです。何とルネ・フレミングがインタビュワーです。舞台裏での大道具や小道具の準備状況やら出演者のメーク風景が映し出されます。
前奏の後、幕が開くと、そこはMETの舞台です。最近のヨーロッパに多くみられる、現代演出に名を借りた手抜き演出とは対極的な舞台です。美術も衣裳も演出も実に丁寧であり、凝りに凝っています。例えば、兄妹を子供に見せるために家具や調度品を大きめに作っていたり、衣装もいかにも貧しい兄妹のものです。
作曲者のフンパーディンクはほとんどこの作品でしか知られていませんが、とても平易で親しみ易い音楽です。最近、売り出し中のウラジミール・ユロフスキとMET管弦楽団にとっては特に聴かせ所のある作品ではありません。
前述したように、とても細部まで行きとどいた舞台と演出、演技なのですが、リアルを追及するあまり、ラストに魔女の丸焼きが出現するのには辟易です。原作のグリム童話の残酷性についてはしばしば言及されますが、この童話も言うならば、オーブン殺人事件です。しかし、犯行に及んだ幼い兄妹は罪に問われません(これって正当防衛(^^;)?)。あらためて中世魔女狩りの暗黒と欧米人が肉食人種であることが思い出されます。もっとも、桃太郎やカチカチ山といった日本のおとぎ話も褒められたものではないでしょうが・・・。
という作品上の問題はありますが、一方で素晴らしいのはここでもグレーテル役のクリスチーネ・シェーファーです。つい先頃、ザルツブルグ音楽祭やパリオペラ座で少年ケルビーノを見事に演じていたと思ったら今度は何と、幼い(ん?何才だ?)少女役です。しかも、それがぴったりとハマっているのですから驚きです。もともと童顔な上に、表情や仕草も少女に成りきっており、しかも違和感がないのですから彼女こそ殆ど魔女です(^^;)。勿論、歌も完璧です。森で眠りにつくときの澄み切った歌唱などは絶品そのものです。また、幕間でのインタビューの際には完璧な英語で(あ、この上演は英語です)、明るくユーモアを交えて応えていました。全く飾り気のない人柄は好感度大です。
次回のLVはヴェルディの「マクベス」です。この作品は映像でも未見です。M・グレギーナ出演というのも気になるなぁ・・・。
(1/15追記)
この演出はMETのオリジナルかと思っていましたが違うのですね。前に録画してあったカーディフ歌劇場(ウェールズ・ナショナル・オペラ)の1998年12月上演映像が棚の奥に眠っていました。演出はリチャード・ジョーンズでMET版と同一人物です。舞台や美術、振り付けに至るまで殆んど同一でした。僅かな違いは夢の精が人形であること、衣装が若干異なること、魔女の丸焼きが七面鳥大だったこと(この点はMETに比べるとリアルさ半減でマシです)。指揮は同じ、いや9歳若いユロフスキです。録音のせいもあるかもしれませんが、LVよりもキレの良い演奏です。
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コメント
拙ブログへのTBありがとうございました。
METのあの演出、まったくの新作でないとは知りませんでした。
でも、そういえば・・・「今回夢の精を人形にしなかったのはなぜか」ということを幕間のインタビューで言ってましたね。そのときに「人形が普通なの?」と一瞬ひっかかたのですが、こういうことだと知って納得しました。
投稿: ちゃむ | 2008年1月15日 (火) 23時35分
ちゃむさん、
ようこそいらっしゃいました。
僕もインタビューの「人形?」というところに引っ掛かっていました。で、眠っていたウェールズ・ナショナル・オペラ録画映像の早送りで(^^;)復習したという訳です。
ちゃむさんはとても多くのオペラを劇場でご覧になっているのですね。また、blogの方にもお邪魔します。
投稿: YASU47 | 2008年1月16日 (水) 00時08分
拙ブログへのTB有難うございました。
ここにきて改めて又あの場面この場面を思い出しています。
ライブヴューイング続けて見たくなりますね。
次回も楽しみです。
おっしゃるとおりヨーロッパの各劇場でも見習って欲しいと私も切に願います。
投稿: kazuko | 2008年1月16日 (水) 23時25分
kazukoさま、
ようこそ、こちらにもいらして下さいまして有難うございました。METのオペラビューイング仲間が増えていくのは嬉しいものです。これからも楽しみです。それにしても、今シーズンは盛り沢山の予定ですね。最大の楽しみは5月のペリー演出、デセイ登場の「連隊の娘」です。
投稿: YASU47 | 2008年1月16日 (水) 23時45分
はじめまして。
こちらは、「UK-Japan2008」公式WEBサイトの運営を行うUK-JAPAN2008WEBサイト運営事務局です。
英国大使館およびブリティッシュ・カウンシルでは2008年に「芸術・科学・クリエイティブ。新しいUKを体感できる一年、UK-Japan2008」を開催いたします。
http://www.ukjapan2008.jp/
現在このUK-Japan2008公式WEBサイトに、サポーターとしてご参加いただける公認ブロガーをスカウトしております。
このたび、YASU47さんのブログを拝見させていただき、
特に音楽関係のコンテンツがとても充実していると感じました。
よろしければ、「UK-Japan2008」にサポーターとして参加いただけませんでしょうか。
ご興味を持っていただけましたら、以下までご連絡ください。
詳細をご説明させていただきます。
UK-JAPAN2008WEBサイト運営事務局
blog@ukjapan2008.jp
※UK-Japan 2008WEBサイト運営事務局は、株式会社読売広告社および株式会社ライトアップで構成されています。英国大使館とブリティッシュカウンシルで構成される「UK-Japan 2008」実行委員会より委託され、 BLOGサイトの運営を行っております。
#突然コメントに書込みを致しました失礼をお許しください。
こちらのブログにふさわしくないようでしたら、お手数ですが
削除をお願い致します。
投稿: UK-JAPAN2008WEBサイト運営事務局 | 2008年1月17日 (木) 15時18分
UK-JAPAN2008WEBサイト運営事務局様
弊blogに目をとめていただきありがとうございます。貴サイトを拝見致しました。UKはかって度々訪れ、WEST ENDの劇場にもよく通ったものです。最も気に入った作品は
http://kawai0925.cocolog-nifty.com/yasu47/2006/10/post_1f06.html
直接、舞台を観ることは出来ませんでしたが、好きな歌手のひとりは
http://kawai0925.cocolog-nifty.com/yasu47/2006/11/behind_the_mask_3f75.html
です。
ということで、英国の音楽分野のファンの一人ではありますが、本blogの勝手気ままな運営はこのまま続けるつもりです。折角のお申し出ですがご期待に添えず申し訳ありません。
投稿: YASU47 | 2008年1月17日 (木) 20時59分
「ヘンゼルとグレーテル」には、苦い思い出がありまして・・・
作品が大好きなんですが、あるアマチュアオーケストラに手伝いを頼まれて「全曲弾ける」嬉しさからのこのこ出掛けていきました。
ところが、となりになった人の楽譜の製本が、ホチキス留めで百頁以上、というとんでもないもので、背をb位ニールテープで貼ってある。とてもめくれません。めくると、また閉じてしまう。仕方がないので、練習中も本番も、楽譜を押さえる役に回ってしまって、結局まっとうに弾くこともできず、かといって舞台を楽しむわけにもいかず、いやんなって打ち上げも出ずに帰って来ちゃったのでした。。。
ああ、残念。ご紹介の映像も目に出来る環境じゃないし。
一度じっくり「楽しみたい」です!
投稿: ken | 2008年1月19日 (土) 12時18分
kenさん、
作品のせいではないとはいえ、それは残念な体験でしたね。オペラとしてはそれほど長時間の演目ではないのですがそんなに厚い楽譜になるのですね。
確かに、地理的、時間的制約等でライブビューイングに容易には出かけられない方も多いことでしょう。でも、近いうちにこれらの作品はTV放映(BSでしょうけど)、あるいはDVDが店頭に並ぶと思います。METがこんな美味しいコンテンツ集をこのまま放っておく筈がありません。
投稿: YASU47 | 2008年1月19日 (土) 23時33分
YASUさん、ありがとうございます。
家内の意向でBSも入っていませんでしたから(いまどき!)・・・是非DVDになって欲しいです!
投稿: ken | 2008年1月20日 (日) 06時18分
初めまして。
先ほどは、ブログにTBをありがとうございました。
TBは、スパムを警戒して、こちらで承認後に反映するようになっているので、ご迷惑をおかけしました。
あの演出、METのオリジナルじゃなかったんですか!?
それが一番驚きました
投稿: 娑羅 | 2008年2月19日 (火) 23時32分
沙羅さん、
こちらにも、ようこそお越し下さいました。
そうなのです。この演出はMETでは初登場ですが、すでにイギリス(ウェールズ)で上演されています。色彩と詩情とユーモアに溢れた、洒落た演出ですよね(魔女殺しを除いて(^^;))。でも、気に入った一番の理由は「シェーファーの魅力を引き出している」からのようです。
投稿: YASU47 | 2008年2月20日 (水) 22時37分
YASU47さん
TBありがとうございます。
若くてかっこよい指揮者ですね^^+
パソコン視聴で一部しか見てません。
全部見てみます。
投稿: edc | 2008年4月 8日 (火) 07時35分
edcさん、
ユロフスキはなかなか濃いキャラクターとの印象です。手元には2003年グラインドボーンの「こうもり」での指揮映像もありました。
投稿: YASU47 | 2008年4月 8日 (火) 22時45分
YASU47さん
全部見ました。
最初に見たショルティ指揮の映画版から
時代が進むにつれて、刺激的になっているようです。
やはりより強い刺激が求められるようになるのでしょう・・ これはそういう意味で最強でした^^;;
>素晴らしいのはここでもグレーテル役のクリスチーネ・シェーファーです
そらしませんね・・
可愛いというのではないのですけど、
知らず知らずに引きつけられて目が離せませんね。
TBしますので、よろしくお願いします。
投稿: edc | 2008年4月13日 (日) 00時16分
edcさんの1982年版との比較記事を興味深く拝見しました。確かに、時代につれて演出も変わっていきますね。不必要な刺激や自己満足的な演出には抵抗がありますが、より現代的な切り口には大いに興味を惹かれます。その意味で、このMET版は現代センスに溢れ、とても面白かったです。
投稿: YASU47 | 2008年4月13日 (日) 13時25分