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2008年1月29日 (火)

『マクベス』@METライブビューイング

80127macbeth 先々週に引き続いてのMETライブビューイングはヴェルディの『マクベス』でした。ほんの2週間前のメトロポリタン歌劇場の公演を」をこうして快適なシネコンのシートで、しかもガラガラ(興業的に大丈夫か?)、さらにドリンクとおつまみ付きで(^^;)楽しめるのですから病みつきになります。

さて、このオペラ、シェークスピアの原作に真正面から取り組んでいるからでしょうか(白状すると、実は原作を読んでいませんが・・・(^^;))、実に緊張感に溢れた世界を作り出しています。オペラにつきものの「愛」に代わり、「権力」「陰謀」「暗殺」そして「破滅」が主題になっています。しかし、音楽に暗さや陰鬱さほとんど感じることはありません。初演は1847年ですからナブッコ(1842年)と同様、ヴェルディ初期の作品群に属します。似ているのは音造りだけでなく、バリトンとドラマティック・ソプラノを軸にした「権力を巡る争い」という点でも同じです。しかし、親しみやすいメロディや美しい合唱に溢れ、また作曲時にイタリア統一運動の熱狂と重なった「ナブッコ」の方が人気と上演頻度の点では勝っていますね。

演出(エイドリアン・ノーブル)は時代設定不明の折衷的なものですが悪くはありません。兵士たちの機関銃による武装はシェークスピアの時代(17世紀初頭)とはかけ離れたコスチュームですが、権力を巡る陰謀の存在は昔も今も変わりません(人間社会も進歩がありませんねぇ・・・)。舞台装置はMETにしてはどちらかというとシンプルですが、音楽への集中を高めこそ、それを阻害するような要素はありませんでした。舞台が暗いのは陰謀劇である以上やむを得ないのでしょうね。

出演者では期待通り、マリア・グレギーナの歌唱と存在感が圧倒的でした。同じヴェルディ作品ではMETとウィーンでのアビガイッレ(ナブッコ)やスカラ座のアメリア(仮面舞踏会)が映像化あるいはBS放映されていますが、いずれもドラマチック・ソプラノの迫力に圧倒され、ヴェルディ音楽の陶酔感に浸らせてくれます。この『マクベス』では加えて、これまで以上の迫真ともいえる体当たり演技をも見せてくれます。

マクベス(Br)とマクダフ(T)の配役がそれぞれL・アタネッリからJ・ルチッチ、B・アロニカからD・ピタス変更になったとのことですが、馴染みのない歌手たちなのでここには特に関心なしです(冷たい・・・)。ただ、Jルッチはマクベスという難役を巧く演じていましたが、声量と深みにはちょっと不満を感じました。しかし、METの代役としては見事に大役を果たしたものだと思います。

さて、次回は3/2の「マノン・レスコー」です。もう一点、このライブビューイングの良いところは、厭でも全編を一挙に観てしまうところです。家で録画した映像はつい早送りをしたり、ややもすると棚の奥に眠ってしまいますから。

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2008年1月22日 (火)

テオドラキス・『ZORBAS』

80122zorbas_2  ギリシャの作曲家、ミキス・テオドラキスのバレエ組曲『ゾルバ』をamazonから取り寄せて聴いています。デュトワ指揮、モントリオール交響楽団、2000年の録音です。

多様性に溢れた音楽で、とても楽しめます。もともとは映画、『その男ゾルバ(実は未見です(^^;))』のための音楽で、美しいメロディが聴き易く、しかも、単なるオーケストレーションの魅力や雄渾さを超えた民族的な力(バルカンの要素?)が圧倒的なのです。クラシックやポップスといった境界を凌駕した音楽の力がそこにはあります。とても深い叙情性(ソプラノと合唱も素晴しい)と民族的リズムに溢れ、強い共感と心に直接訴える感動を与えてくれます。

僕がこの作曲家の存在を知ったのはかなり古く、1975年前後だったと思います。当時、ギリシャの軍事政権に抵抗する(投獄と亡命を経験)作曲家として知られていました。今でもよく覚えているのは、ガルシア・ロルカの詩に、ジョン・ウィリアムスがギター伴奏をつけ、マリア・ファランドーレが歌ったアルバム『ジプシー歌集』です。故あって、そのLPを手放してしまい、その後、今に至るまでCD化されたものを探しているのですが見つかりません。

ところが、遂にYouTube上でその一部を見つけました。

http://www.youtube.com/watch?v=9DhqtrLjdH4

かなり後年になってからのコンサートライブで、残念ながらJ・ウィリアムスは出ていませんが、テオドラキスとファランドーレのヴォーカルを聴くことが出来ます。

ギリシャの民主化が果たされてからは国会議員、大臣としても活躍し、1992年のバルセロナ・オリンピックのための音楽も書いています。映画音楽(軍事政権への抵抗映画『Z』が有名)に加えて、交響曲やオペラも書いていますが政治活動の陰に隠れてしまっているのでしょうか、あまり陽の目は見ていないようです。このバレエ組曲『ゾルバ』を聴く限り、ますます興味を惹かれる作曲家です。この素晴らしい演奏を残してくれたデュトワにも感謝です。

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2008年1月14日 (月)

『ヘンゼルとグレーテル』@METライブビューイング

80114methansel 20081月1日のメトロポリタン歌劇場公演『ヘンゼルとグレーテル』を観てきました・・・といってもNYまで出かけてきた訳ではありません。MOVIX柏の葉でのライブビューイング(LV)です。

いやぁ、面白い世の中になりました。つい2週間前のMET公演を大スクリーンと6チャンネル音響で楽しめるのですから・・・。

このMET LVはこれからもほぼ定期的に各地の映画館で上演されます。詳しくは以下のサイトにあります。見逃せない作品が続きますね。

http://www.shochiku.co.jp/met/index.html

願わくば、ヨーロッパの主要劇場にも見習ってもらい、更に多くの映画館で上演してもらいたいものですが、今回、客席はまばらでした。せめてMETの継続を願うことにします。

さて、上演に先立ってMETの客席風景がざわめきと共に映し出されます。雰囲気が盛り上がってきたところで、楽屋裏のインタビューです。何とルネ・フレミングがインタビュワーです。舞台裏での大道具や小道具の準備状況やら出演者のメーク風景が映し出されます。

前奏の後、幕が開くと、そこはMETの舞台です。最近のヨーロッパに多くみられる、現代演出に名を借りた手抜き演出とは対極的な舞台です。美術も衣裳も演出も実に丁寧であり、凝りに凝っています。例えば、兄妹を子供に見せるために家具や調度品を大きめに作っていたり、衣装もいかにも貧しい兄妹のものです。

作曲者のフンパーディンクはほとんどこの作品でしか知られていませんが、とても平易で親しみ易い音楽です。最近、売り出し中のウラジミール・ユロフスキとMET管弦楽団にとっては特に聴かせ所のある作品ではありません。

前述したように、とても細部まで行きとどいた舞台と演出、演技なのですが、リアルを追及するあまり、ラストに魔女の丸焼きが出現するのには辟易です。原作のグリム童話の残酷性についてはしばしば言及されますが、この童話も言うならば、オーブン殺人事件です。しかし、犯行に及んだ幼い兄妹は罪に問われません(これって正当防衛(^^;)?)。あらためて中世魔女狩りの暗黒と欧米人が肉食人種であることが思い出されます。もっとも、桃太郎やカチカチ山といった日本のおとぎ話も褒められたものではないでしょうが・・・。

という作品上の問題はありますが、一方で素晴らしいのはここでもグレーテル役のクリスチーネ・シェーファーです。つい先頃、ザルツブルグ音楽祭パリオペラ座で少年ケルビーノを見事に演じていたと思ったら今度は何と、幼い(ん?何才だ?)少女役です。しかも、それがぴったりとハマっているのですから驚きです。もともと童顔な上に、表情や仕草も少女に成りきっており、しかも違和感がないのですから彼女こそ殆ど魔女です(^^;)。勿論、歌も完璧です。森で眠りにつくときの澄み切った歌唱などは絶品そのものです。また、幕間でのインタビューの際には完璧な英語で(あ、この上演は英語です)、明るくユーモアを交えて応えていました。全く飾り気のない人柄は好感度大です。

次回のLVはヴェルディの「マクベス」です。この作品は映像でも未見です。M・グレギーナ出演というのも気になるなぁ・・・。

1/15追記)

この演出はMETのオリジナルかと思っていましたが違うのですね。前に録画してあったカーディフ歌劇場(ウェールズ・ナショナル・オペラ)の199812月上演映像が棚の奥に眠っていました。演出はリチャード・ジョーンズでMET版と同一人物です。舞台や美術、振り付けに至るまで殆んど同一でした。僅かな違いは夢の精が人形であること、衣装が若干異なること、魔女の丸焼きが七面鳥大だったこと(この点はMETに比べるとリアルさ半減でマシです)。指揮は同じ、いや9歳若いユロフスキです。録音のせいもあるかもしれませんが、LVよりもキレの良い演奏です。

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2008年1月 6日 (日)

山下りん@足利正教会

皆さんは「山下りん」という画家をご存じですか?

西洋画を学ぶため、明治の始めに単身でロシアに渡り、ロシア正教の修道院でイコン(聖像画)の手法を学んだ女性です。西洋画とイコン画との間での葛藤がありましたが、帰国後しばらくしてからイコン制作に集中し、国内各地の正教会に多くの作品が残されています。業績に加えて、その数奇で波乱に満ちた人生ゆえに近年、その存在が見直されています。昨秋にはNHKで、彼女のサンクトペテルブルグ留学時代に焦点を当てた特別番組が放映されました。皆川博子の大作『冬の旅人』のヒロインの前半の人生のモデルにもなっています。

以前から気になる存在でしたので、足利の正教会(正式には「足利ハリストス正教会・主の昇天聖堂」)に出かけ、彼女の作になるイコンを実際に見てきました。この教会には計11枚の作品が飾られています(そのうちの「三位一体図」は奥の至聖所に置かれ原則非公開)。丁度、彼女が学んだ時代のイコンは西洋画法の影響を受けて伝統的な信仰の対象としてのイコンとはかなり異なっています。現在の正教会では再び伝統的なイコンが見直され、山下りんの作品は厳密に言えばイコンではなく、宗教画として扱われています。80104rin

さて、実際の作品を目の前にして、油絵にも拘わらず、その柔らかなタッチに驚かされます。確かにロシア各地の教会で目にした祈りの対象としてのイコンとは異なり、ロシアやヨーロッパの美術館に収蔵されている宗教画の雰囲気に似ています。伝統的なイコンは板に描かれるのですが、彼女の作品はキャンバスに描かれている点も異なります。それにしても、彼女自身はエルミタージュ美術館で模写の勉強を自ら行い、また、そこには在日正教会から皇帝ニコライ2世に贈られた彼女の作品も所蔵されているとのこと(非公開)ですが、ロシアから帰国後の長い年月を経ても、明治の時代にこのような西洋宗教画を描き続けていた人物がいたということに深い感慨を覚えます。

山下りんについては多くのサイトがあります。詳しい生涯や作品リストについては「山下りん(白稟居)」と「山下りん研究会」がお勧めです。尚、「白稟居」というのはりんの生地であり、晩年を過ごした茨城県の笠間市に2006年に開設された資料館です。今回、足利と共に訪れてみたのですが、残念ながら閉館していました。月に数日しか公開されないようですのでまたの機会に訪れたいと思っています。

最後に足利正教会で、閉館中にも拘わらずご親切に内部を案内していただいた清水様にお礼を申し上げたいと思います。

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