« 2007年6月 | トップページ | 2007年8月 »

2007年7月29日 (日)

映画・『魔笛』

70729_3 映画『魔笛』を見ました。ケネス・ブラナー監督が来日記者会見で、「オペラの専門家ではないからこそ、大衆に向けて扉を開くことが出来たと思う」と語っているように、この映画は決してオペラファンを満足させることが目的で作られたものではありませんが、モーツァルトや魔笛を知る、知らないに関わらずに楽しめる作品となっています。

これまで『魔笛』については、比較的多くの舞台や映像を観てきましたが、芯からの満足感を得たことはありませんでした。南極基地らしきところを舞台にした演出(2000年ヴィスバーデン)には思わずのけ反りましたし、2001年のパリ・オペラ座映像の学芸会的な演出には辟易です。『魔笛』は一歩間違えると、とんでもない駄作でしかなくなるという危うさと表裏一体の作品です。破天荒なストーリー、天真爛漫なメロディーから、美しいアリア、ミサ曲風の合唱曲に至る音楽の多様性、フリーメーソンの儀式を窺わせる神秘性等々がないまぜになった実にユニークな作品ですが、それらの魅力を舞台上であますことなく表現することは実に困難のようです。『魔笛』はヨーロッパ、とりわけドイツ語圏では上演機会の多い作品ですが、家族連れ向けの観客も多く、そのことが演出上の縛りにもなっているようにも感じます。

この映画では、『魔笛』だからこそ許される自由な解釈と演出が発揮されています。最終的には「愛と平和」に落ち着いてしまうという平凡な結末に不満も感じますが、それでも随所に映画だからこそ可能な演出、映像効果、ヒネリが満載です。そもそも背景を第一次大戦に設定することからして舞台表現の限界を超えていますし、更にSFXの多用、音楽と映像の計算された同期、効果的なカメラワークなどにより目と耳を奪われ続けます。「火の試練」のシーンなどは思わず「なるほど、こういう手もあったのか」と呟いてしまいました。

タミーノが戦場の泥の中から顔を上げる場面は「地獄の黙示録」、夜の女王の墜落場面は「ダイハード」、ラストの緑の絨毯が野山を覆う場面は「ファンタジア2(火の鳥)」など、パロディとも思えるシーンも幾つか見られます。そういえば、この作品は「地獄の黙示録」のパロディそのものかもしれません(カーツ大佐の帝国は安泰ですが(^^;))。

音楽面ではDOLBYサウンドが館内に響き渡り、モーツァルトを聴くという気分にはなれませんが、『アマデウス』以来の素晴らしいサウンドトラックです。出演者ではザラストロのルネ・パペ、夜の女王のリュボフ・ペトロヴァの両中堅が実にしっかりしています。ペトロヴァは2003年のグラインドボーン音楽祭の「こうもり」でアデーレを好演しているものの(TV映像より)、スープレッド役には気品がありすぎると感じていましたが、この映画では夜の女王の喜怒哀楽を見事に演じています。タミーノ役のジョセフ・カイザーとパミーナ役のエイミー・カーソンに大きな不満はありませんが、オペラファンの視点からすれば、別のキャスティングもあったのかなという印象です。

70730 最期に、舞台映像の推薦盤を挙げるのは難しいのですが、2003年のコヴェントガーデン歌劇場盤(D・マクヴィカー演出、C・ディヴィス指揮)はハルトマン(タミーノ)、レシュマン(パミーナ)、キーンリーサイド(パパゲーノ)、ダムラウ(夜の女王)といった出演者たちの魅力もさることながら、演出が真摯なことに好感が持てます。『魔笛』は厄介な作品ですが、余計な理屈は考えないことが楽しむための最大のコツかもしれません。

| | コメント (4) | トラックバック (3)

2007年7月28日 (土)

2007年夏・北海道への旅

早めの夏休みをとって45日の気楽な北海道独り旅へ行ってきました。一昨年はフェリーで苫小牧に上陸してから釧路・知床方面が中心でしたので、今回は以下の日程で旭川から北上して稚内方面へ出かけてみました。緑の中を走る「夏の北海道」は病みつきになりますね。

一日目 : 旭川空港、レンタカーでオロロンラインを日本海に沿って北上、天塩泊

二日目 : 更に北上、サロベツ原野を経由して稚内泊

三日目 : 利尻島往復、サイクリングとレンタルバイクで島内一周、稚内泊

四日目 : 宗谷本線沿いに南下、名寄、士別、旭川を経由して十勝岳温泉泊

五日目 : 富良野と美瑛散策、旭川空港より晩のフライトで羽田へ。

観光地への訪問とは別に気が付いたことといえば、元気のある街とない街との差です。全国で生じている都市間格差が北海道では一層目立つようです。通過しただけの印象ですが、かつては交通の要所だった名寄市、音威子府村、物資の集散地であった天塩町、士別市、炭鉱町だった芦別市等々の寂れ度が進行しているようです。地方都市にありがちな、郊外型SCの建設による中心部の空洞化というのではなく、消費後背地を含めたその地域まるごとの人口が減少し、かつ高齢化しています。

それぞれに努力も感じます。例えば、音威子府は天北線の廃止と共に、宗谷線との分岐点という交通の要所としての地位を失い、今では村の人口は千人を下回ってしまいましたが、豪雪、自然環境と共に、アイヌ名の僻村であることを逆に売り物にしてその知名度を上げています。

1992年に炭鉱が閉山した芦別市では、「星の降る里」としてキャンプ場や宿泊施設の拡充に努めています。郊外には小規模な炭住街も残っていますが、比較的明るい雰囲気で今でも一般住宅として使用されています。夕張のような財政難に陥らずに再浮上が出来るのでしょうか。

70729北部では先端の稚内が頑張っています。 新しいホテル等も増え、利尻・礼分島、宗谷岬、サロベツ原野等への観光拠点、サハリンとの交流窓口としての発展がますます期待出来るようです。(右の写真は稚内市内の夕暮れ)

一方で富良野、美瑛の観光地化と人口36万人を超えた旭川の都市化が成功例として目立ちます。現在のところ、イオンのような大型SCの北限界も旭川までのようです。

折りしも参院選挙を数日後に控え、候補者の公示看板をあちこちで見かけました。通りすがりの観光客の目には見えない地域格差の実態がどのように選挙結果に現れるのかも大いに興味を惹かれます。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年7月15日 (日)

L・プルナールのヴァイオリンリサイタル

70714prunaru712日にロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)のコンサートマスター、リヴィウ・プルナールのヴァイオリン・リサイタル(白寿ホール)に出かけてきました。 同じRCOのヴィオラ奏者、金丸葉子さんの案内によるもので、僕にとっては久しぶりの器楽曲リサイタルでした。

まずは、選曲の良さがひかります。

・モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲

・バルトーク / 6つのルーマニア舞曲

・ヴィニアフスキ / 華麗なるポロネーズ

・ヘンデル(ハルヴォルセン編曲) / パッサカリア

・フランク / ヴァイオリンソナタ イ長調

ピアノは同じ桐朋学園の卒業生ということでしょうか、たびたび金丸さんとは共演をしている、フランクフルト在住の江尻南美さんです。

プルナール氏はルーマニアの出身で、これまでソリスト、室内楽奏者として多くの活躍をしてきましたが、2006年よりRCOのコンマスを務めているとのことです。悠然とした構えでヴァイオリンがとても小さく見えますが紡ぎだされる音色は繊細かつ大胆なものでした。モーツァルトの出だしはちょっと固いとの印象も持ったのですが、金丸さんの好サポートにより息の合ったデュオを聴かせてくれました。生のライヴ空間でモーツァルトを聴く一瞬一瞬というのは何にも代えがたい歓びです(このホールは音響もとても秀れています)。ヘンデルのパッサカリアではヴィオラとの緊張感溢れる、それでいて知的な対話がとてもスリリングでした。

バルトークとヴィニアフスキでは、同じ東欧系の音楽だからということでしょうか、一転して大胆で情熱的な音を聴かせてくれました。フランクのソナタでは静謐から奔放まで多様性に満ちた演奏で近代ロマン派音楽の魅力をたっぷりと味わせてもらいました。江尻さんのピアノは好サポートというだけでなく、自身も大活躍していました。

金丸さんのヴィオラを初めて聴いたのは、前にも書きましたが、彼女がまだ桐朋学園の学生で、1995年にモスクワでのコンクールに挑戦された時でした。以来、応援を続けているのですが、僕のような素人耳にも、深みとスケール感が大きく増したことを感じます。ベルリン、フライブルグでの留学、サイトウキネンへの参加等を経て、今ではRCOの一員としてアムステルダムを拠点に頑張っておられます。今後の更なる活躍を願っています。

尚、お二人の公式HPは以下のURLです。

金丸葉子サイト

http://www.yokokanamaru.com/

江尻南美サイト

http://www.namiejiri.com

気温の増してきた季節に、こうした清涼感に満ちた室内楽の響きが大満足の一夜でした。

70714_170714

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2007年6月 | トップページ | 2007年8月 »