新国立劇場『ばらの騎士』
新国立劇場でR・シュトラウスの『ばらの騎士』を観ました(6月13日公演)。これまでDVD映像やドイツの劇場(フランクフルト、ヴィスバーデン)で親しんできた作品だけに、期待と不安が半々に入り混じっていた観劇前でしたが、結果として想像を遥かに超えたレベルの高さに大満足の舞台でした。
まずジョナサン・ミラーによる演出は、時代を20世紀初頭に設定したことで物語がより身近になると共に、ロココ趣味によるうわべの豪華さから自由になりました。過剰な装飾を排した舞台装置と明るい照明により、とてもすっきりとした空間です。 片側に廊下を配したことにより演出上の多様性も増しました。舞台美術上の洒落た場面も多く見られます。とりわけ、第1幕のラストで、降り出した雨のしずくが窓をつたわって落ちていく様子などは実に秀逸な照明効果でした。
出演者では何といってもオクタヴィアンのエレナ・ツィトコーワが素晴らしかったですね。初めて聞く名前だったのですが、すでに新国立には何度か出演している人気者とのことです。スリムな体型とボーイッシュな顔立ちがオクタヴィアンにぴったりというだけでなく、歌唱も実に安定していて、2重唱、3重唱の場面においても見事なメゾパートのハーモニーを聴かせていました。勿論、演技も実に達者で、これからも注目のとても魅力的なメゾソプラノです。
マルシャリン(元帥夫人)のカミッラ・ニールントも舞台映えする容姿に加え、第1幕では無邪気さと悲哀を、第3幕では威厳と慈愛を感動的に歌い上げていました。特に第1幕の後半の独白場面というのはマルシャリンの魅力ひとつにかかっているのですが、ニールトンはここでも見事に歌い、演じ切り、大人のオペラとしてのこの作品のドラマ性と格調を高めていました。
ペーター・ローゼ(オックス男爵)も見事にブッファ役を務め、オフェリア・サラ(ゾフィー)も悪くありません。加えて素晴らしかったのが日本人出演者たちです。とりわけ、背戸裕子(アンニーナ)と田中三佐代(マリアンネ)の歌唱と演技は自然で申し分ありません。ペーター・シュナイダー指揮による東フィルも良く鳴っていました。紛れもないR・シュトラウスの豪華で効果的なオーケストレーションも堪能することが出来ました。
国立劇場とはいえ、まだまだ主役たちを外国勢に頼らざるをえない事情はあるのでしょうが、これだけレベルの高い舞台を観ることが出来たことはとても嬉しい体験でした。病みつきになりそうです。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんばんは、お久しぶりです。
私も今日、この公演を見に行ってきましたが、演出に関しては私も第1幕最後の雨だれのシーンが非常に印象に残りました。歌の美しさと情景の美しさが見事に共鳴し合っていましたね。
投稿: Takuya | 2007年6月20日 (水) 22時21分
Takuyaさん、こんばんは。
今日観て、もうレビューのアップとは素早いですね!Takuyaさんによる高い評価を読んで、私のベタ誉め記事も間違ってはいないことことに安心しました。
あの雨にシーンは今でも目に焼き付いています。脇役たち、ひとりひとりの動きも含めて、各所に洒落た演出が目につきましたね。
こちらからもTBさせていただきました。
投稿: YASU47 | 2007年6月20日 (水) 23時25分
私は17日に見ました。ツィトコワは4年前の新国『フィガロ』のケルビーノで、艶のある声とその豊かな声量に驚いたのですが、今回のオクタヴィアンといい、実に良い歌手だと思います。おっしゃるように、新国立劇場のオペラもなかなかの水準ですね。
投稿: charis | 2007年6月21日 (木) 00時49分
Yasuさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
「ばらの騎士」を劇場で観るのははじめてでしたが、ほんとうに良い公演でうれしかったです。Yasuさんも大満足なさったのですね。ご意見、同感です。
>主役たちを外国勢に頼らざるをえない
これについては、たとえすばらしい日本人歌手をそろえられたとしても、観て違和感のない演出(舞台)ができないかぎり、しっかりと「主役たちは、外国勢(外国ならなんでもいいわけではなくて、当然優秀な....)に頼ってもらいたい」と思います^^!
>オクタヴィアンのエレナ・ツィトコーワ
2003年の秋、新演出の「フィガロの結婚」でのケルビーノが、非常に魅力的でした。歌が良いのは当然ですが、毎回、その役の人物が伝わってくる感じがする歌手です。
主役から小さい役にいたるまで、こういう歌手がそろった上に、指揮者がすばらしいから、うそっぽさを感じないで、心から納得できる舞台が出現したのだと思います。
投稿: edc | 2007年6月21日 (木) 07時34分
YASUさん、こんにちは。
今回の《ばらの騎士》、ほんとステキな舞台でしたね。
目と耳の肥えたYASUさんも、満足されたようで良かったです。(^^)
ツィトコーワは、ズボン役だけでなく新国の《コジ・ファン・トゥッテ》の再演時にドラベッラも歌ったそうですよ。(私は観てないのですが(^^;)
これからも目の離せない歌手ですね。
TBを送らせていただきました。どうぞよろしくお願いします。
投稿: snow_drop | 2007年6月21日 (木) 13時27分
YASUさん、ごめんなさい。同じジョナサン・ミラー演出とはいえ、《ファルスタッフ》をTBしてしまいました。削除お願いします。
YASUさんからのTBですが、こちらの問題で、反映されていませんので、お手数ですが、再度、送信していただけますでしょうか。
《ばらの騎士》は、生舞台ははじめてでしたが、あっというまの4時間でした。キャスティングずれのない、素晴らしい公演でしたね。
投稿: keyaki | 2007年6月21日 (木) 17時23分
charisさん、こんばんは。
charisさんのblogでもこの舞台への好印象を書かれていましたね。洒落た演出に加えて、美しき歌姫たちの饗宴は素晴らしいものでした。これらも、勿論R・シュトラウスの音楽あってのことだと思います。charisさんにとってはmixi名の主役の素晴らしさもあって尚のこと満足されたことでしょうね。
投稿: YASU47 | 2007年6月22日 (金) 00時39分
edcさん、
コメントありがとうございます。確かに、どれほど優れた歌手たちであろうと、主役たちがほとんど日本人であったら、やはり違和感は拭えませんよね(ミュージカルの日本語吹き替え版にも違和感大です)。特に今回は素晴らしいキャストに恵まれた幸運を素直に受け入れることにしましょう。とりわけ、ツィトコーワはこれからもしっかりと追跡です(^^;)。
投稿: YASU47 | 2007年6月22日 (金) 00時50分
snowさん、
こちらでもありがとうございます。そう、本当に大満足な公演でした。センスに溢れた舞台美術と洒落た演出、弛緩を感じさせない音楽にあっという間の数時間でした。
そうですか、ツィトコーワはドラベッラも歌ったのですか。確か、snowさんは「コジ」は苦手でしたよね。でも、彼女の舞台を観れば先入観も少しは変わるのでは(^^;)?
投稿: YASU47 | 2007年6月22日 (金) 01時10分
keyakiさん、
《ファルスタッフ》の削除処理と当方からの再TBを行いました。
それにしても、新国立で《ファルスタッフ》まで観てしまうなんて何と羨ましいこと!舞台では未見なので、一度見てみたいと思っています。この作品は「ばらの騎士」以上に演劇性を要求されるのえしょうね。
投稿: YASU47 | 2007年6月22日 (金) 01時20分
YSAUさん、こんにちは。
いやぁ、皆さん絶賛のとおり、素晴らしい舞台でした。
私は何度ウルウルしてしまったことでしょう。
男ながら、元帥夫人の思いに自分を重ねてしまっくらい、見入ってしまい、同化できました。
要はベテラン、シュナイダーの指揮かもしれません。
今年はチューリヒの「ばら騎士」にも行く予定ですが、あちらは演出がちょっと不安です。遅ればせながら、TBさせていただきました。
投稿: yokochan | 2007年6月23日 (土) 12時19分
yokochanさん、
こちらにもコメントをありがとうございます。本当に素晴らしい舞台で、とても幸福なひと時でしたね。チューリッヒはBS映像で見ました。やはり明るい舞台ですね。カサロヴァは奮闘しているのですが顔がちょっと怖い・・・(^^;)。
楽しまれますように。
投稿: YASU47 | 2007年6月23日 (土) 20時57分