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2007年6月28日 (木)

中山可穂『ケッヘル』(上・下)

女性作家特有のとても濃い作品でしたが、1500枚の長編を一気読みしました。何が濃いのかといえば、愛情、憎悪、恋愛、破局、レスビアン、逃亡、復讐、それに加えて多重人格、フリーメイソン、殺人、猟奇、薬物中毒に至るまで三世代にわたる愛憎テンコ盛りの物語なのです。そして、こんな一歩間違えれば辟易とするような物語を一本に繋ぐのがケッヘル・・・そう、モーツァルトの作品番号です。70628 70628_1

登場する作品は実に60-70曲にのぼります。K139「ミサソレニムス(孤児院ミサ)」、K478「ピアノ四重奏曲」、K527「ドン・ジョヴァンニ」、K550「交響曲40番」、K626「クラリネット協奏曲」、K626「レクイエム」等々に加えて、多くのピアノソナタとピアノ協奏曲です。勿論、紙の上から音が聴こえてくる訳ではありませんが、いつの間にかモーツァルトの音楽がまるで映画のサウンドトラックのように頭の片隅で鳴っているような気分になるから不思議です。

この数奇な物語の発端(小説の書き出しではなく出来事の始まり)は、将来を嘱望されていた若き天才指揮者と女性ピアニストとのピアノ協奏曲20番(K466)での運命的な共演です(あ、千秋とのだめではありません。念のため(^^;))。指揮者はモーツァルトにのめりこみ、次第に全ての行動原則をケッヘル番号に求めます。時刻表マニアに似ているのかもしれませんね。列車番号をケッヘル番号に見立てて放浪する辺りはロードムービーの色彩が濃くなります。ウィーンやプラハといったモーツァルトゆかりの街もふんだんに登場し、旅の雰囲気を盛り上げます。

下巻に入ると物語は真犯人捜しのミステリー色が濃くなります。恋愛要素とミステリー要素が絡み合いながら物語が展開します。不満をあえて述べるならば、登場人物Aによる復讐とBによる協力への動機付けが弱いことです(Aはどこまで事実を知っていたのだろうか?)。加えて、復讐される者たちがこの一風変わった旅行社の扉を叩くようになった経緯が不明です(モーツァルティアンというだけではちょっと弱いような気がします。A&Bによる誘導による?)

≪ネタバレにならないようにこれ以上は止めたほうが良さそうです≫

中山可穂の作品は今回初めて読みました。表現や文章のセンスに溢れていて、読みながら飽きさせることは全くありません。一方で、女流特有の香りが濃く、モーツァルト絡みではないとちょっと手の出しにくい作品が多いようです。

最後に、ワルツさんのblog「うたかた日記」を紹介させていただきます(無断事後承諾でごめんなさい>ワルツさん)。この作品に登場する全モーツァルト作品のリストと主な作品のCD、ネット上の試聴音源が紹介されています。一読、一聴の価値ありです。

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2007年6月20日 (水)

新国立劇場『ばらの騎士』

新国立劇場でR・シュトラウスの『ばらの騎士』を観ました(613日公演)。これまでDVD映像やドイツの劇場(フランクフルト、ヴィスバーデン)で親しんできた作品だけに、期待と不安が半々に入り混じっていた観劇前でしたが、結果として想像を遥かに超えたレベルの高さに大満足の舞台でした。60620rosen1_1

まずジョナサン・ミラーによる演出は、時代を20世紀初頭に設定したことで物語がより身近になると共に、ロココ趣味によるうわべの豪華さから自由になりました。過剰な装飾を排した舞台装置と明るい照明により、とてもすっきりとした空間です。 片側に廊下を配したことにより演出上の多様性も増しました。舞台美術上の洒落た場面も多く見られます。とりわけ、第1幕のラストで、降り出した雨のしずくが窓をつたわって落ちていく様子などは実に秀逸な照明効果でした。

出演者では何といってもオクタヴィアンのエレナ・ツィトコーワが素晴らしかったですね。初めて聞く名前だったのですが、すでに新国立には何度か出演している人気者とのことです。スリムな体型とボーイッシュな顔立ちがオクタヴィアンにぴったりというだけでなく、歌唱も実に安定していて、2重唱、3重唱の場面においても見事なメゾパートのハーモニーを聴かせていました。勿論、演技も実に達者で、これからも注目のとても魅力的なメゾソプラノです。

マルシャリン(元帥夫人)のカミッラ・ニールントも舞台映えする容姿に加え、第1幕では無邪気さと悲哀を、第3幕では威厳と慈愛を感動的に歌い上げていました。特に第1幕の後半の独白場面というのはマルシャリンの魅力ひとつにかかっているのですが、ニールトンはここでも見事に歌い、演じ切り、大人のオペラとしてのこの作品のドラマ性と格調を高めていました。

ペーター・ローゼ(オックス男爵)も見事にブッファ役を務め、オフェリア・サラ(ゾフィー)も悪くありません。加えて素晴らしかったのが日本人出演者たちです。とりわけ、背戸裕子(アンニーナ)と田中三佐代(マリアンネ)の歌唱と演技は自然で申し分ありません。ペーター・シュナイダー指揮による東フィルも良く鳴っていました。紛れもないR・シュトラウスの豪華で効果的なオーケストレーションも堪能することが出来ました。60620rosen4_4

国立劇場とはいえ、まだまだ主役たちを外国勢に頼らざるをえない事情はあるのでしょうが、これだけレベルの高い舞台を観ることが出来たことはとても嬉しい体験でした。病みつきになりそうです。

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2007年6月10日 (日)

RENT @Broadway

今、ニューヨークにいます。数日前に到着して、これから帰国するというとんぼ返り出張です。久し振りのNYは相変わらず人の波ですが、治安は明らかに回復しており、南部や西部の大雑把で楽天的な巨大都市に比べると、この街はコンクリートの塊で出来上がっているにも拘らず、その雑踏がむしろ心地よく感じるのが不思議です。70608ny_1 高層ビル内で働くビジネスエリートたちと社会の底辺でその日を生き抜いている人々が妙に調和しながら混在している街です。

さて、予定していた仕事を終え、僅かな残り時間に早速出かけたのがタイムズスクウェア周辺です。現在上演中の主な作品は、ロングランを続けている「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」「シカゴ」「ライオンキング」等々に加え、「Wicked」「The Pirate Queen」といった新作の看板が目を引いていました。後者はTVでも予告編を放映されていましたが、どこかで聴いたことのあるメロディだと思ったら音楽がBoubill & Shonberg、すなわち「レミズ」「ミス・サイゴン」のコンビです。音楽と美術、歴史上の題材であるところは同じコンビによる「マルタン・ゲール」にとてもよく似ているようでした。「マルタン」はとても好きな作品だったのですが、残念ながらロングラン上演とはなりませんでした。尚、この「The Pirate Queen」は以下のURLで一部を観ることが出来ます。

http://www.newyorkcitytheatre.com/theaters/hiltontheater/theater.html

結局選んだのはお馴染みの『RENT』です。この作品はWest Endで3回、東京での来日公演、加えて映画、DVDCD等ですでに目と耳に焼き付いている作品ですが、開演寸前でのチケットが容易に入手出来たことと、物語の舞台となっている街で観られるということで衝動買い(^^;)

作品については以前にも書いたので省略・・・。何度見ても感動的です。終演後もしばらくは席を立てません。客層のほとんどはリピーターと思われ、エンジェルやモリーンのパフォーマンスの場面では客席からやんやの喝采も飛び出し、会場全体がひとつになって盛り上がりをみせていました。70608rent_1

久し振りのミュージカルにとんぼ返りの疲れも少しは癒された出張となりました。来週末は東京で新国立の「ばらの騎士」です。楽しみ・・・。

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