R・シュトラウスの『四つの最後の歌』
私の最も好きな曲のひとつにリヒャルト・シュトラウスの『四つの最後の歌』があります。1948年、シュトラウスの死の前年、84歳のときの作品です。数々の管弦楽曲、オペラ作品である意味、受け狙いの職人的技法を大いに発揮してきた作曲家が最後に静寂と諦念に満ちた奇跡のように美しい曲を書きました。最初にこの曲を聴いたのはもう20年も前のジェシー・ノーマン盤(マズア/ゲヴァントハウス管)で、オケ部分の録音の良さと相俟ってその美しさに耳を奪われました。R・シュトラウスといえば、それまで「ツァラトゥストラ」「ドン・キホーテ」「アルプル交響曲」「英雄の生涯」といった大向こうを唸らせるようなド派手なオーケストラサウンドに浸ることを楽しんできましたが(当時は未だオペラ作品に親しむ以前でした)、それらとはあまりに対照的な世界を描いた内省的で美しい作品に感動したのです。以来、特に意識せずとも、E・シュワルツコップ(セル/ベルリン放響)、B・ヘンドリックス(サヴァリッシュ/フィラデルフィア)、S・ステューダー(シノーポリ/ドレスデン)、L・デラ・カーサ(ベーム/VPO)などのCDが溜まっていきました。
それらの演奏の中でも、シュワルツコップによる明晰かつ感情豊かな表現は素晴らしく、とりわけよる第4曲の「夕映え」では、人生の最終章に感じるであろう寂寥感を高い芸術性をもって歌い上げています。セルのオーケストラはシュワルツコップを格調高くサポートするだけではなく、同時に歌い手との緊張感も漂わせる名演です。
J・ノーマン盤は歌唱スケールの大きさと、その一方での繊細な叙情性で他の盤の追随を許しません。オーケストラの精巧さも図抜けており、美しさでは群を抜いた演奏といえるでしょう。
そして、この曲を録音するのを心待ちにしていたクリスティーネ・シェーファー盤(ティレーマン/ベルリンドイツオペラ管)が新たにコレクションに加わりました。シェーファーについては、これまでも度々書いてきましたが、彼女の美質はやはりドイツリートの世界でこそ最大限に発揮されると感じます。(現代曲での評価もとても高いのですが、個人的にはそのジャンルに壁を感じてしまい何も述べることは出来ません。)
そのシェーファーの「四つの最後の歌」は歌の巧さに加えて、彼女には珍しく、張りのある声とスケールの大きな表現で、枯淡の境地というよりはむしろ生命の豊さを感じさせるものでした。確かにヘッセの詩による第1曲「春」は歓びを歌い、「9月」と「眠りにつくとき」を経て次第に内省の世界に入り、終曲「夕映え」で静謐へと至るのです。ドラマを感じさせるシェーファーによる新たな境地はファンにとってはとても興味深いものでした。ちなみにこのCDは2004年のライブ録音です(メジャーによる正式な市販ではありませんので詳細は控えます)。
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