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2007年3月17日 (土)

エクサン・プロヴァンス音楽祭『コジ・ファン・トゥッテ』

グラインドボーンザルツブルグに続く、『コジ・映像シリーズ』(いつの間に始まったのだ?)の第3弾は2005年エクサン・プロヴァンス音楽祭です。最近、何かと話題のエクサン・プロヴァンス、シェロー演出、ハーディング指揮、更に大物たちの出演ということで期待は大きかったのですが、重たさと暗さではザルツの『フィガロ』に負けないシリアスな演出に若干辟易です。「コジ」といえば、美しい重唱とウィットに満ちたアンサンブルに浸りたいのですが、パトリス・シェローの演出はこの台本を真正面から捉えた破局ドラマとしました。70317coci

舞台を中世集合住宅の中庭のような空間に設定し、主人公を原作のナポリの令嬢、すなわち、多少、天然の入った世間知らずのお嬢様姉妹という設定から外したことでシリアスドラマが始まっています。コメディ色は消えて、まるでイタリア・ヴェリズモのようです。例えば、最終場でワイングラスを傾けながら過去への別れを歌う場面では(モーツァルトは何と美しい曲を書いたのでしょう)、2組のカップルが決して元には戻らないことをリアルに決定付けています。他の多くの舞台では四重唱の妙を優先することで、カップルの行く末は未だ曖昧にしているように感じます。この舞台ではどの場面でも、音楽が演出に従属しているようです。モーツァルトが果たして望んだことなのでしょうか?

本来ならばアンサンブルの一翼を担うべき、アルフォンソにR・ライモンディ、デスピーナにB・ボニーという超大物を配したことにより、全体のバランスが壊れてしまったように思えます。二人とも、狂言役にも拘らずヴェリズモ演出のせいで、しかめっ面に終始しています。特に、ボニーには年齢を超える魅力を発揮してもらいたかったものです(例えば、ポネル演出の映画版で、やはり年齢を重ねたストラータスのコメディエンヌぶりは爽快でした)。

フィオルディリージのE・ウォールという歌手は初めてですが、歌唱にも舞台姿にも特に魅力は感じませんでした(と、二人の士官たちと共に簡単に切り捨て(^^;))。あまりアンサンブル向きではないようです。

ドラベッラのE・ガランチャはこの舞台で唯一精彩を放っていた存在と言えます(単なるひいき目(^^;)?)。メゾ歌手たちの中でもとりわけ重たく深い声質を持つガランチャは元々ドラベッラにはあまり相応しいとは思えませんが、今回のドラマ性の高い演出ではその美しく翳りのある容貌と相俟ってひときわ魅力的でした。尚、昨年暮れに「アリア・カンティレーナ」というファースト・ソロアルバムが発売されています。キルヒシュラーガーやカサロヴァといった軽いメゾに慣れた耳には、まるでアルトにも聞こえるガランチャの低音域の深さに驚かされたものです。

ということで、この映像盤はかなり特異な「コジ・ファン・トゥッテ」です。これまでの「コジ」に飽き足らない方とガランチャのファンにはお奨めです。

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コメント

yasu47さま お早うございます。

『コジ』よく見られていますね
私もモツアルトのオペラの中では一番好きで、CDは色々と持っているんですが、DVDまでは持っていません。
色々と参考になります。ライモンディとボニーが出ているのが凄い舞台ですよね~
私は、『コジ』は2回見ているんですが、スィトナーさんとサヴァーリシュさんなんですが、歌手の名前を思い出せないンですよ、爆~。

ミ(`w´彡)

投稿: rudolf2006 | 2007年3月18日 (日) 04時19分

yasu47さん、こんにちは。

シェロー演出ということで、ちょっと期待してましたが、少なくとも映像としては、正直、外れ^^; 姉妹の衣装の色が、特にその単純明快な対比が美しかったのが一番印象的でした。

>二人の士官たちと共に
ですね。男声二人、個性がなく、どっちがどっちかわかりません。

劇場で見たら違うのかもしれませんが、どうも散漫で、捉えにくいというかわかりにくく、もどかしい感じで、楽しめませんでした。

投稿: edc | 2007年3月18日 (日) 07時27分

rudolfさん、こんにちは。
コジはblogタイトルに拝借しているだけでなく、実際にハーモニーの美しさとアンサンブルの妙に惹かれてモーツァルトのオペラの中で最も好きな作品です。rudolfさんにとってもベストということで嬉しく思います。
私も何度か舞台を観ていますが、あまり歌手にはこだわりません。アンサンブル重視のためには、記憶に残らない無名、若手の方が却って良いかもしれませんね。

投稿: YASU47 | 2007年3月18日 (日) 20時40分

edcさん、こんばんは。
edcさんも同じような印象を持たれたのですね。コジに限らず、最近のモーツァルト作品はどうも難しいヒネリが多く、単純に楽しめる舞台が少なくなっているように感じます。
で、私の場合はミーハー路線に変更して、ガランチャの深みに満ちた声と憂いある美貌にのみ集中することにしました(^^;)。

投稿: YASU47 | 2007年3月18日 (日) 20時52分

こんにちは
ザルツブルグはどうしても現代っぽい演出が多く感じます。
出演者や指揮がよくてもできれば豪華な衣装を望んでしまいます。
コジは楽しみですね。

投稿: おぺきち | 2007年3月19日 (月) 18時19分

おぺきちさん、こんにちは。
そうですね。昨年のザルツブルグのモーツァルト全作品上演(M22)は全てが現代演出だったようです。ドイツの劇場でのモーツァルトも殆んどが現代演出ですね。ロココ衣装も含めていろいろな舞台や演出があっていいと思いますが、あからさまにコスト削減が目的だったりすると興醒めですね。

投稿: YASU47 | 2007年3月19日 (月) 22時01分

>あからさまにコスト削減が目的

じゃないと劇場が成り立たない、という発想が、いまヨーロッパでは支配的なんだそうですね。
そうじゃなくて、歌舞伎の舞台装置の考え方とか、京劇みたいに「舞台装置無しでやる」とか、いろいろ工夫がありそうなものだけれど。
即物的な発想が演出をもつまらなくする傾向にあるのではないか、と・・・それは日本の現代劇にも言えることなのですけれど、危惧しております。

この「コジ」、拝読して非常に興味をそそられました。
ある意味、シェローの一側面を典型的に現した演出なのでしょうね?
そういう点では、モーツァルトファン、というよりシェローファンは必見、なのでしょうか?
屁理屈通津手しまって恐縮ついでですが、星マークとは違った意味でのおすすめ度をお伺いしたいと存じます。

まいどすみません。

投稿: ken | 2007年3月20日 (火) 10時58分

kenさん、こんにちは。
ブーレーズの指輪全曲映像(バイロイト)を棚の奥に眠らせている私にシェローを語る資格はないようです。
TBして頂いたOrfeoさんのblogではシェロー目線での高い評価がされており、とても勉強になり、見方も変わります。でも、私の場合はやっぱりガランチャ目線で◎です(^^;)

投稿: YASU47 | 2007年3月20日 (火) 22時54分

初めまして!このブログのタイトルからして、きっとモーツァルト・ファンに違いない、と思いました。私も去年末からモーツァルトに突然目覚めて、特にオペラでは「コジ」が一番好きなんです。

私もクラシック・ブログを始めたばかりなんですが、毎日更新しています。モーツァルトの他に、ベートーヴェン命、ピアノを7歳から始めたわりにはテクなし、でもピアノを弾くのが大好きです。

お暇なときに、私のところに覗きに来てくだされば嬉しいです。

どうぞこれからよろしくお願いします!

投稿: mattina | 2007年3月21日 (水) 13時43分

mattinaさん、はじめまして。
そうなんです。モーツァルトによって人生、少し得をした気分になっています。mattinaさんも「コジ」が一番好きとは嬉しいです。でも、mattinaさんが命とされるベートーヴェンはこの作品は不道徳だということで忌み嫌ったようですよ(^^;)。以降、19世紀の間は殆んど日の目をみなかったようです。
mattinaさんのblogも音楽の話題が満載ですね。リンクに加えさせていただきました。

投稿: YASU47 | 2007年3月21日 (水) 18時06分

お久しぶりです。明日この「コジ」の記事をトラックバックさせて頂いてよろしいでしょうか?とても興味深く読みました。

ところで、リンクさせていただきました。

これからも宜しくお願いします!

投稿: mattina | 2007年3月24日 (土) 19時04分

mattinaさん、こんばんは。
当blogへのコメント、TBは勿論大歓迎ですよ♪モーツァルトやコジについていろいろな意見や思いを聞ける(読める?)のは、音楽を楽しむ上でも、blog継続の上でも大きな喜びです。
相互リンクもして頂きありがとうございました。

投稿: YASU47 | 2007年3月24日 (土) 21時46分

YASU47さん、こんばんは。コメントどうも有難うございます。コメント頂くと、ちょっときつくても、今日も更新するぞ~って、とても励みになるんです。それに、YASU47さんのような博学な方からのコメントは、私のようなものにとっては、とても勉強になります。

ホントに「コジ」は、いいですよね!

これからも宜しくお願いします!!

投稿: mattina | 2007年3月26日 (月) 22時25分

mattinaさん、
そうですね。コメントはblogやHPを継続する上での最大の励みとなりますよね。博学なんて言われると恥ずかしいです。年輪分の雑知識が垢みたいに溜まっているだけです。これからもmattinaさんのフレッシュな記事を楽しみにしています。

投稿: YASU47 | 2007年3月26日 (月) 23時06分

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DVDライブラリーより。 1966年から3年間、20歳代前半にしてパリ近郊のサルトルーヴィル市立劇場の監督を務め、そこを破産させてしまった若き日のパトリス・シェロー。彼はそれを契機に、追放される形で... [続きを読む]

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今日は、以前の記事でも取り上げた、モーツァルトの「コジ」について、ほんの少しだけ書いてみようかと思います。yasu47さんの興味深い記事を読んでつい、また書きたくなってしまいました。トラックバックさせて頂いております。お世話になります。 yasu47さんによると、....... [続きを読む]

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