コルンゴルド・『死の都』
昨年は生誕250年のモーツァルトに明け暮れた一年間でした。今年はぐっと地味にエーリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルド(1897-1957)の生誕110年かつ没後50周年です(このことは別のblogで知りました)。
私にとって最初のコルンゴルド体験といえば、数年前にBSで放映された歌劇『死の都』での衝撃です。 この現代感覚とロマン的情緒に満ち溢れた音楽はコルンゴルド19歳の時の作品というから驚きです。R・シュトラウスの技法とマーラーの官能、更に私事したツェムリンスキーの情緒がミックスしたような実に耽美的な音楽です。
2001年、ストラスブール歌劇場での映像は、妻を失い半ば狂気に陥っている主人公パウルを演じるT・ケルル(T)と、亡くなった妻マリーに瓜二つの踊り子マリエッタを演じるA・デノケ(S)の歌唱が実に素晴らしいのです。オリジナルでは正気に目覚めたパウルがラストに再生するというハッピーエンドとのことですが、この演出ではそれが果たされない悲劇となっています。舞台美術も見事であり、台本もしっかりしているので一層の感銘を受けることが出来ます。
この作品の舞台となっているのは運河の街としても有名なベルギーのブリュージュです。劇の中では歴史に重く沈んでいるこの街の夜をパウルが徘徊することになっています。アムステルダムを小さくしたような街なのでしょうか?
さて、コルンゴルドといえば、この「死の都(Op.12)」大成功の前後に至るまでは神童としてウィーンで大いにもてはやされていました。しかし、その後、オペラの衰退を見越したコルンゴルドはハリウッドに招かれて映画音楽の世界に入り、オスカーを2度受賞するなどの活躍を続けました。その間、ヴァイオリン協奏曲(Op.35)チェロ協奏曲(Op.37)などを発表しています。映画音楽で使われた曲などを再利用しながらとても情緒的かつ効果的な作品となっています。
戦後にはウィーンへ帰還し、再度クラシック界への復帰を図りましたが、ヨーロッパではすでに忘れられていた作曲家であり、不成功のまま失意のうちにロス・アンジェルスに戻りその生涯を終えました。
しかし、その死後20年ほど経てから再度コルンゴルドの音楽見直しの機運が高まってきたと言えます。ヨーロッパでは「死の都」は今では主要なレパートリーとなっていますし、管弦楽作品の録音も増えています。今年の生誕&没後記念でそれに弾みがつくことを期待したいものです。
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コメント
コンゴルド生誕110周年なんですね。オペラは一昨年学びました。本番が10回以上あったにも関わらず、音が多くて毎回大変でした。
( 苦労の割に舞台は見えなかったので、未だに音楽とストーリーの一致を見ていません・・)
またヴァイオリン協奏曲は最近伴奏しました。
途中スターウオーズみたいな音楽になり、ヨーロッパの人達はハリウッド音楽風だと言っていましたよ。
投稿: へボーうさぎ | 2007年2月 4日 (日) 08時15分
はじめまして、こんにちは。
TBありがとうございます。
ストラスブールのヴィデオはDVDで持っててたまに見ています。演出がなかなか小技がきいていて面白いですね。お人形さんフェチのパウルが面白いし。おデブの男の子が出てきてアリアのピアノ伴奏するシーンも(幼少のコルンゴルトのそっくりさん)結構笑えました。
またお邪魔させていただきますね。
投稿: naoping | 2007年2月 4日 (日) 10時52分
こんにちは。TBありがとうございました。
私はこのDVDはまだ観てないのです。一昨日CDショップで手にとって大いに悩んだんですが、今後の大型外来公演の出費に備えて我慢しました。
皆さんで、コルンゴルド祭でもささやかにやりましょうか(笑)
投稿: yokochan | 2007年2月 4日 (日) 13時56分
へぼーうさぎさん、お久し振りです!
RCHの「死の都」なんて想像しただけで身震いがします。でも、オペラというのは舞台とオーケストラが一体となった総合芸術であると信じている僕らにとって、舞台とピットとの間の意外な壁には気がつきません。オケの皆さんはひたすら指揮棒に集中しているのでしょうか?(もっとも、舞台が見えてしまったら気が散るよなぁ・・・)
確かにヴァイオリン協奏曲はハリウッド時代に作られたもので、それまでに作曲した映画音楽をかなり取り込んでいるようです。コルンゴルドはハリウッドの音楽を根底的に変えたとも評価されていますから、スター・ウォーズをはじめとする、J・ウィリアムスの映画音楽にも大きな影響を与えているのでしょうね。
投稿: YASU47 | 2007年2月 4日 (日) 14時57分
naopingさん、こちらにも、ようこそおいで下さいました。
パウルの人形フェチはちょっと気味が悪いですね。床下にマリーの骸を
隠したままにしておくのも違法な遺体遺棄行為では(^^;)?
確かに男の子は幼少時のコルンゴルドにそっくりですね。改めて見直して笑えました(シリアスな演出なのに・・・)
naopingさんのblogは内容が充実しているだけでなく、ユーモアのある語り口に魅了されます。先日の「アニータ記事」にも爆笑です。お気に入りに登録させて頂きました。これからもちょくちょく寄らせて頂きますので宜しくお願い致します。
投稿: YASU47 | 2007年2月 4日 (日) 15時12分
yokochanさん
このストラスブール盤、他に映像盤が出ていない(ですよね?)以上、コルンゴルド祭♪には欠かせない一品だと思いますよ。もう少しお悩み下さい(^^;)
投稿: YASU47 | 2007年2月 4日 (日) 15時21分
>コルンゴルド祭♪には欠かせない一品
私も迷わさせていただきます。。。
投稿: ken | 2007年2月 7日 (水) 16時52分
kenさん、
コルンゴルド祭への参加ありがとうございます。
この作品の物語はkenさんにとってはお辛いのではと余計な心配もしてしまいます。でも、音楽は素晴らしいと思います。
投稿: YASU47 | 2007年2月 7日 (水) 23時16分
YASUさん、
今日ようやく、昼休みに大きなショップに行けたんです。
で、DVDを見つけて手を出しかけましたが、ご忠告の
>この作品の物語はkenさんにとってはお辛いのではと
云々が脳裏をよぎり、やっぱり躊躇してしまって、
隣にあった
「コルンゴルト 神童の冒険-ポートレイトとコンサート」
の方を買ってしまいました。。。
怖さに負けた!
でも、この中でも、ほんの7分間だけですが、「死の都」に触れていますので、それを見ながら覚悟を決めていこうと思っております!
とり急ぎご報告まで。
投稿: ken | 2007年2月16日 (金) 13時54分
kenさん、
「コルンゴルト 神童の冒険」のDVDは彼の人と作品を知る上でとても興味深く私も気に入っています。ハリウッド時代のチェロ協奏曲やヴァイオリン協奏曲も入っているので買い得感もありますね。「ポートレート」の最後に収録されているアンネ=ゾフィー・フォン・オッターの「リュートの歌」はことのほか美しく、うっとりと聞き惚れてしまいます。この曲は「死の都」の中で歌曲として、また終曲としても甘く、悲しく歌われます。
投稿: YASU47 | 2007年2月17日 (土) 21時04分
ポートレイト、(いろいろやりながらですので・・・)まだ半分しか見れていないんですけれど、とても気に入りました。アンネ=ゾフィー・フォン・オッターも大好きな歌手の一人なので、早くそこまでたどり着きたいです!
もうひとつ、ポートレイトを通じて、「ヘリアーネの奇跡」のエピソードも知りました。興業的には失敗だったそうですけれど、私の中で、これは『死の都』と補いあう作品のように強く感じられて、今日、池袋へ出たついでにCDを見つけてきました。
『死の都』に接する力を与えてくれる作品であると感じましたので、今晩から1週間くらいかけてじっくり鑑賞したいと思っております。
私には名前が記憶の片隅にあった程度のコルンゴルとの存在を、YASUさんのこちらの記事で知ることが出来て、いま、とても有り難く思っているところです。
彼が音楽を付けた映画も、追々見て行こうかな。楽しみです!
投稿: ken | 2007年2月18日 (日) 19時03分