グラインドボーン音楽祭『コジ・ファン・トゥッテ』
先日のNHK BS Hi-Visionで2006年グラインドボーン音楽祭の『コジ・ファン・トゥッテ』が放映されました。昨年、各地で上演されたモーツァルト生誕250周年記念イベントのひとつです。先日のザルツブルグ記事に続いて「またか」と言われそうですが、ブログ名に本作品タイトルを拝借している以上は見ない訳にはいきません(^^;)。
さて、結論から言うならば、とても楽しめた上演映像でした(演出はN・ハイトナー)。 舞台は明るく、場面の切り替えもスピーディです。アンサンブル・オペラに相応しく、とても計算された間合いとコミカルで洗練された演技によって飽きさせることがありません。引き締まったピリオド演奏はとりわけ「フィガロ」や「コジ」のように軽妙さと敏捷さを要求されるような音楽作品にはとても良く似合います。これらのモーツァルト作品のイギリスやフランスでの昨今の上演にはむしろピリオド演奏が主流なのでしょうか。I・フィッシャー指揮によるエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団も序曲から最後に至るまで弛緩することなくメリハリの効いた小気味の良い演奏を聴かせてくれます。
出演者に大物はいませんが不満は感じません。フィオルディリージのミア・ペションはスェーデン出身とのことです(北欧にしては小柄ですが、顔つきは納得)。大向こうを唸らせるような迫力と声質ではありませんが揺れ動くヒロインを好演していました。ドラベッラのアンケ・フォンドゥングはちょっとオバサンぽくなった(^^;)ソフィー・コッシュといったところですが決して悪くはありません。二人の士官にはイケメン歌手たち(T・レティプー、L・ピサローニ)が配されています。
この作品は最後の締めくくり方次第で後味が変わります。その点で、この演出は渋々ながら元の鞘に収まるカップルに含みを持たせて会場の笑い(失笑)を誘うことで後味の良さを残します。このテはガードナー/シャトレ座でも使われていました。
「コジ」の映像も溜まってきました。下に5段階評価付きで列挙してみました。全くの個人的嗜好(自分のブログでしか出来ない(^^;))に基づいた素人評価なのでご不満な方には予めお詫びしておきます。(リストは左から指揮者/演出/劇場/フィオルディリージ/ドラベッラ/上演年の順です。)
評価基準は、(1)引き締まった演奏、(2)アンサンブル重視の演出、(3)美しい重唱、(4)明るく洒落た舞台、(5)美しい姉妹、(6)品格(スワップ物語だけど)、(7)デスピーナの出来、(8)士官たちの見栄え、(8)アルフォンソが老人すぎないこと、(9)理屈っぽくないこと、そして、(10)モーツァルトを聴く歓びを与えてくれること・・・です。
☆☆☆☆☆
ガードナー/シャトレ座/ルークロフト/マニオン(1995)
☆☆☆☆
アーノンクール/ポネル/VPO/グルベローヴァ/ジーグラー(1988)
アーノンクール/フリム/チューリッヒ/バルトリ/ニキテアヌ(2001)
フィッシャー/ハイトナー/グラインドボーン音楽祭/ペション/フォンドゥング(2006)
☆☆☆
ホーネック/ヘルマン/ザルツブルグ音楽祭/マルチネス/コッシュ(2006)
ムーティ/ハンペ/スカラ座/デッシー/ジーグラー(1989)
☆☆
ハーディング/シェロー/エクサン・プロヴァンス音楽祭/ウォール/ガランチャ(2005)
☆
プリッチャード/スラック/グラインドボーン音楽祭/ドーセ/リンデンストランド(1975)
スミス/P・セラーズ/ウィーンSO/ラーソン/フェルティ(1991)
バレンボイム/デリエ/ベルリン国立/レシュマン/カンマーローア(2002)
ちなみに、寸評は以下のページに記載しています。
http://www.d1.dion.ne.jp/~kawaiys/sub39.htm
やっぱり演奏と姉妹の美しさが大きな要素です・・・「おじさんは皆こうしたもの♪」ですから(^^;)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
寸評の頁を拝見し、ビックリ!
すごい!
私なんか1作につき1映像しかないのが原則なので(^^;
「コジ」は値段が安かったムーティのものです(アーノンクールを買える持ち合わせがなかったし)。星二つですか。うーん、やっぱり。
ロッシーニのオペラも全部聞きたいなと思っているところですが、最近映像で出る者が増えて、喜んでいいのか悲鳴を上げた方がいいのか、悩んでおります。
投稿: ken | 2007年2月20日 (火) 08時44分
kenさん、
劇場チケットは高く、都内に出るのも面倒なのでつい安易な映像に走ってしまい、気づいたらかなりの枚数になっていたという訳です。
ムーティのコジはオケの音が豪華で勇ましいですね。この作品にはちょっと違和感を感じました。D・デッシーもいい歌手なのですが、どうしてもヴェルディやプッチーニのイメージが強くて・・・。
kenさんも仰るように最近は映像盤がホントに増えましたね。選択の幅が広がったのは有り難いですが、悩みも増えました。
投稿: YSU47 | 2007年2月20日 (火) 22時37分
BSの放送はまだ観てないのですが、なかなか良かったみたいですね。
YASUさんの寸評を参考にいろいろ映像を観てみようと思います。
>やっぱり演奏と姉妹の美しさが大きな要素です・・・「おじさんは皆こうしたもの♪」ですから(^^;)
ぼ、僕ももうおじさんの仲間入りみたい!? ガクブル
投稿: こだま | 2007年3月 1日 (木) 15時31分
こだまさん、
そうなんです。この映像はあまり期待していなかった分だけ逆に得をした気分になりました。でも、僕の寸評にはあまり重きを置かないように。完全にオヤジ視点ですから(^^;)。
投稿: YASU47 | 2007年3月 1日 (木) 22時20分
YASU47さん、こんにちは。コメント、ありがとうございます。
TBさせていただきました。来てみたら、ブログ「オジ・ファン・トゥッテ♪」前にもおじゃましたことがあります。今後ともよろしくお願いします。
>この作品ではユーモアと機知に満ちた演出や美しいハーモニーに触れることでとても幸せな気分になれるのです。
同感です。
で、
>ガードナー/シャトレ座/ルークロフト/マニオン(1995)
私もこの映像、とても気に入りました。もうひとつ好きなのは、テレビ(クラシカ・ジャパン)で見た1969年カール・ベーム指揮のオペラ映画です。
投稿: edc | 2007年3月 3日 (土) 22時56分
edcさん、
ベーム指揮のオペラ映画というのは知りませんでした。ベームの「コジ」というのは定評があるようですね。いかにも謹厳実直の塊のようなベームがこのような不謹慎な(^^;)作品を得意とするとは、やはり、おじさんは皆こうしたもの?
ガードナーはピリオド楽器による引き締まった演奏と、ボケとツッコミが巧妙に演じ分けられた美人姉妹の魅力でしょうか。
投稿: YASU47 | 2007年3月 4日 (日) 12時54分
はじめまして。さまよえる歌人日記さんのリンクに、名前が乗っていて、面白いタイトルだと思っていたのです。金曜夜の放映を見て、自分でも書いたので、ヤフーで検索したら出てきました。とてもよかったのですが、まだなんだかよくわかっていなくて、誰か書いていないかなと探したのです。こんなにビデオがあったのですか、しりませんでした。また、よろしくおねがいします。
投稿: サモトラケのニケ | 2007年4月22日 (日) 18時51分
サモトラケのニケさん、
コメントありがとうございます。ニケさんの記事も読ませていただきました(TBさせていただきます)。このグラインドボーンの舞台は演出のみならず、出演者たちも機知に溢れた演技をしているのには好感が持てますね。モーツァルトのオペラの中では長い間、コジは不当な扱いを受けてきましたが、最近の上演や映像化の頻度をみると最も人気のある作品の一つになっているようです。嬉しいことですね。
投稿: YASU47 | 2007年4月22日 (日) 22時05分