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2007年1月27日 (土)

映画『不都合な真実』

封切り中の『不都合な真実』を観ました。何の予備知識も持たずに出かけてみたのですが予想を超えたアル・ゴア氏の語り口の巧さに引き込まれた1時間半強でした。先の大統領選挙での敗北後、ゴア氏は環境問題、とりわけ地球温暖化への警告の伝道師として世界中を講演して回っています。この映画はスライドやフィルムを多用したそれら講演内容の映像化ともいうべき映画で、まるで大学の講義を聴講しているような新鮮な気分を味わうことが出来ました。70127inconvenient3

内容はCO2濃度と気温の関係をまず明らかにし、更に温暖化が海流や気象、生態系、海面上昇等に与える影響を映像を駆使しながら具体的に分りやすく説明しています。最後に「現状の認識と身の回りで出来ることからはじめよう」「米国は京都議定書の批准を」「未だ諦める必要はない。人類の知恵によって解決は可能である。」と結んでいます。深刻な状況への警告と共に人類の能力への信頼を表明しています。一部に同意出来ない政治的発言もありましたが、それでも、改めて環境問題への再認識をさせられる一方で、解決への希望をもらうことが出来ました。より多くの人に見てもらいたい映画です。

かって、自分が最初に認識した環境問題といえば1970年代の「水俣」「四日市」「阿賀野川」等に代表される所謂公害問題でした。主に工場からの排水、排ガス、廃棄物による汚染被害が中心でした。先日逝くなられた宇井純氏主宰「自主講座」での記録をまとめた「公害原論」や石牟礼道子著「苦界浄土」に影響を受けたものです。これらの裁判は一応の決着や和解をみていますが、患者の苦しみは未だ終わっていないものと認識しています。その後の行政と企業側の一定の努力、地域住民による監視の強化等により環境保護にかけるべきコストへの認識も高まり、日本においては大気、河川等の汚染は大幅に軽減しました。一方で、80年代以降も、現在に至るまで公害工場の海外移転、核汚染、地下水汚染、薬害、日照、アスベスト汚染等による新たな被害が多く出ています。しかし、温暖化に代表される地球環境問題に関してはあまりにも規模が大きく、しかも変化が緩慢(映画の中ではカエルの例で的確に表現していました)であるために自覚が難しく、ついつい直視を怠ってきたということがあります。

以下の映画連動URLに私たちが出来ること、として29項目が挙げられています(USサイトからの転載のため必ずしも当てはまらないものもありますが)。

http://www.futsugou.jp/takeaction/index.html

国や企業による努力は勿論のことですが、それらを構成している私たち自身が変わることが第一歩でしょう。諦めたら終わりです。子供たちに破壊された地球を渡すわけにはいきません。及ばずながら私自身も常に意識をもった行動を心がけたいと思っています。

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2007年1月23日 (火)

終わらぬ悲劇・・・『Iraq Body Count』

イラクにおける宗派間テロ、米軍による破壊行為が止みません。ブッシュ政権は21,500人の米軍増派を決定し、すでに第一陣はイラクに到着しています。このような状況下、数ヶ月ぶりにNGOIraq Body Count (IBC)のサイトにアクセスしてみたところ、Min. 54,432 - Max. 60,098名という市民死者数の集計値(2006/12/30まで)が掲載されていました。70124iraq_1

前回報告(9/2343,209 - 48,046名と比較すると約3ヶ月間で1万人以上の増加であり、平均して毎日、115 - 124名の市民が殺されていることになります。これは、イラク侵攻開始1年目の20/日、2年目の31/日、3年目の36/日、そして昨年前半の60/日に比べて格段に増加した数値であり、この半年間で治安が一層悪化し、悲惨さが増幅されたことに他なりません。

また、Lancet Medical Journal(英国の医療情報誌)によれば、イラクにおける総死者数は65万人を超え、2006年の前半は平均して毎日1,000人(何と!)が殺されたと報じています(10/26 IBC内記事)。

どちらの集計がより現実に近いのかは別として、これらの数字には改めて愕然とせざるをえません。私たちはともすれば陸上自衛隊の撤退後(空自は未だ米軍に協力して活動中)はイラクの現状を何処か遠い出来事のように感じてしまいがちです。しかし、日本政府が、国連や多くの諸国の反対を押し切ってのブッシュ政権による一方的なイラク侵攻を容認したばかりか、派兵協力さえ行ったことにより、現在のイラクの惨状への責任の一端があるということに今だに反省の表明がありません。また、そのような政府の行為を許した私たち国民の責任も大きいと言わざるをえません。

個人で出来ることは限られています。しかし、最低限、イラク問題にこだわり続けること、毎日100名以上の命を失われていく惨状に心を痛め、弱者や侵略を受ける側に立った上での想像力を養うことから出発したいと思っています。

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2007年1月13日 (土)

パトリシア・プティボン・『French Touch』

いつまで待っても国内で発売にならないので業を煮やしてamazon.frから直接購入してしまいました。CD盤「French Touch」に呼応した200311月、パリのサル・ガボーにおけるリサイタルDVDです(但しPAL仕様ですので要注意)。ピアノ、チェロ、パーカッションだけをバックにしたシンプルな楽団構成ですが、パトリシア・プティボンの萌え~(^^;)な魅力満載の素敵な映像アルバムです。Petibonsg4

曲はプーランク、シャブリエ、サティ、オッフェンバック、ドリーブ、そして幾つかのシャンソンというオール・フレンチ・プログラムです。とにかく通常のクラシック・リサイタルとは趣きが大きく異なり、ユーモアとポップスセンスに溢れた舞台で聴衆を大いに沸かせます。YouTube上での「カディスの娘たち」でもその一端を知ることは出来ますが、全編を通じたプティボンの表情の豊かさと聴衆オリエンテドな姿勢は恐らくクラシック系歌手の中でも比類がないでしょう。「オランピアの歌」でのコミカルな表現(もはや芸人の域ですね(^^;))はナタリー・デセイも顔負けです。声の美しさとW・クリスティの薫陶を受けた技術の確かさは言うまでもありません。加えて、クラシック界では稀有の愛らしさと表現力を身につけているのですから魅かれない訳にはいきません。オジ・ファンにはたまりませんよね。

今年2007年のザルツブルグ音楽祭ではハイドンの「アルミーダ」への出演(ゼルミーラ役)と単独リサイタルが予定されているとのことです。5月に予定されていた来日は残念ながら中止となってしまいましたが、今年がプティボンの年となることは間違いなさそうです。

尚、DVDにはインタビューの特典映像が付いているのですが、字幕なしのフランス語なので理解出来ません。残念・・・。

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2007年1月 9日 (火)

冬枯れの北総ウォーキング

秋に続いての北総ウォーキングです。今回は北総線「印西牧の原」駅から北に向かい、小さな神社やお寺に寄り道をしながらJR成田線「小林」駅に到る約9キロのコースです(北総線のパンフレットに紹介あり)。千葉の北総地域をほぼ東西に平行に走る北総線とJR成田線に挟まれた地域にはかっての森林や原野の姿を一部にとどめながら、江戸時代以来の開拓村落とそれに付随する神社や仏閣の名残が点在しています。701081_2 この数年で急激な開発ラッシュに沸く北総線沿線と、昔ながらの風情を残すJR成田線沿線の木下(きおろし)、小林地区との対照も興味深いものです。 右の冬の日差しを浴びる地蔵たちの写真のように穏やかな時の流れを感じながらのウォーキングでした。

道筋に「巴塚」という怪しげな石版がありました。「巴」とは言うまでもなく木曽義仲の愛妾「巴御前」のことです。巴は義仲の敗死後、源頼朝の重臣、和田義盛の元に庇護されましたが、やがてその和田義盛も北条家に滅ぼされ、尼となってこの小林の地に隠れ住んで最後を迎えたとの伝承です。しかしながら、この巴塚というのは義仲あるいは巴御前ゆかりの地(滋賀県大津市義仲寺、富山県南砺市福光町、富山県小矢部市倶利伽羅峠)にそれぞれ立派な碑が在り、左の写真のようにたかだか30センチ四方の薄い石版が地面に突き刺さっているだけでは全く勝負になりません。70108 しかし、前に書いた「頼政塚」と同様の地域伝承とのことで、源氏の落ち武者の子孫がこの一帯に住みついたということなのでしょうか?興味を惹きたてられます。

帰りは再び北総線「印西牧の原」へ。駅前に出現した巨大SC内の近代スパ施設でつかの間の温泉気分です。このギャップは何だろう?

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2007年1月 7日 (日)

ザルツブルヅ音楽祭『コジ・ファン・トゥッテ』

2006年ザルツブルグ音楽祭の映像DVDM22シリーズ)のレビュー第2弾です。70107cosi 前に書いた『ドン・ジョヴァンニ』と同様に年代設定不明のシンプルな舞台演出ですがこちらの方がはるかに好感を持つことが出来ました。「ジョヴァンニ」では意味不明で余計な演出があまりにも多すぎました。この「コジ」では姉妹が最初から男共の目論見を知っていたという想定ですが、そのことをあまり深く考える必要はないでしょう。この作品では物語についてあれやこれやと考えるのではなく、ただひたすらモーツァルトの音楽に浸るのが「勝ち♪」です。これほど心の琴線に触れてくる美しいアリア、二重唱、三重唱、四重唱が満載の作品が他にあるでしょうか? 

舞台は全編を通じて明るく、一部、意味不明のオブジェクト(恐竜の卵?)もありましたが特に音楽に邪魔にはなりません。舞台上にレチタティーヴォ用のチェンバロを常に配置して演出の一部としていたのは面白い試みでした。全体的にとてもシンプルですが、もともと、この作品に豪華なセットや重い舞台衣装は似合いません。

M・ホーネック指揮によるウィーンフィルは美しく響き、ベテランと若手を組み合わせた配役にも満足です。とりわけ、フレンチ・メゾソプラノのSophie Koch(ソフィー・コッシュ、アルザス出身でドイツ語圏での活躍も多く、ゾフィー・コッホと表現されることが多い)を初めて聴きましたが、歌唱、舞台姿共にとても魅力的です。メゾというと最近ではエリーナ・ガランチャの人気が急上昇しているようですが(mixiにコミュまであるし(^^;))、これからはこの二人が人気を競うのでしょうか?

さて、これで「コジ」の映像盤も8枚目になりました。かのベートーヴェンは台本の不謹慎さゆえにこの作品を忌み嫌い、19世紀には殆んど日の目を見なかったとのことですが、このblogタイトル名もそこから拝借しているように、僕の最もお気に入りの作品なのです。新国立やヨーロッパ等での舞台も何度か楽しみました。映像盤の寸評は下のHPに載せていますので興味のある方はどうぞ。

http://www.d1.dion.ne.jp/~kawaiys/sub39.htm

やはり美しい姉妹に惹かれますね・・・「おじさんは皆こうしたもの♪」です(^^;)

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