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2006年12月 3日 (日)

ザルツブルヅ音楽祭『ドン・ジョヴァンニ』

今年(2006年)夏のザルツブルグ音楽祭での公演映像がM22Mozart 22)シリーズとして早くも店頭に並んでいます(輸入版)。全22作品のうち、最も話題となった「フィガロの結婚」だけは来年5月の発売とのことです。販売元の魂胆は不明ですが、昨年のようにBS放映が先行した場合は売り上げに大きく影響すると思うのですが・・・。61204jovanni_1

さて、その先行発売分21タイトルの中から『ドン・ジョヴァンニ』を視聴してみました。舞台演出は最近、しばしば名前を聞くM・クシェイですが、どうしてもこの「ジョヴァンニ」の演出は好きになれません。オペラ演出の現代化と舞台装置の簡略化は単に費用の問題だけではなく、場合によっては音楽への集中力と緊張感を高める上でも効果的であり一概に否定するものではありません。しかし、この「ジョヴァンニ」においては意味不明の場面の連続です。出演者たちの下着ショー化は今に始まったことではなく、「又か」と冷ややかな感想しか浮かびませんが、この女性たちは娼婦館を表しているとか、ジョヴァンニの征服歴を表しているとかの解釈論が付きまとうと、最早意味不明となります。最終の食事場面で何故雪を降らすのか?何故レポルロがジョヴァンニを刺すのか?等も理解出来ません。ちなみにこの演出が最初に登場したのは2002年のザルツブルグ音楽祭で、その後若干の変更を加えながら再演を重ねているとのことです。

最近ではグラインドボーン(1995)やエクサンプロヴァンス(2002)音楽祭の「ジョヴァンニ」でもやはり、装置コスト削減のシンプルな演出が行われていましたが拙HPでは酷評してしまいました。また、今回のザルツブルグでは回り舞台を採用していますが効果は疑問です。例えば、チューリッヒ(2001)では回り舞台を場面転換に巧く利用していましたが、今回のザルツブルグでは背景が変わる訳でもなく、回転時の騒音が邪魔なだけでした。

昨年のザルツブルグの「トラヴィアータ」もごくシンプルな舞台での現代演出でしたが、ヴェルディのオペラというよりは完全にネトレプコ・ショー化しており、それはそれで良いのではという感想でした。しかし、「ドン・ジョヴァンニ」は群像劇であり、特定のスターのワンマンショーとはなりえず、やはり納得性のあるストーリー演出も必要ではと考えます。

同じクシェイが2003年のザルツブルグで演出した『皇帝ティートの慈悲』がDVD化されています。大掛かりなセット上を出演者たちが走り回るという落ち着かない演出ですが、レシュマン、カサロヴァ、ガランチャ、ボニー、シャーデといった魅力的な歌手たちによってかなり楽しめる作品に仕上がっています。

今回の「ジョヴァンニ」も基本的に同じ路線であり、シェーファー、ハンプソン、ダルカンジェロといった巧者を揃えているのですが、何せ演出があまりにも意味不明で舞台に集中出来ません。折角のシェーファーのドナ・アンナも思い入れをもって聴くことが出来ず(厚化粧は似合わないし(^^;))、むしろ、CDならば余計なことを考えずに音楽を楽しめるのでは?と思ってしまいます。但し、ドナ・アンナのアリア「私を冷酷と言わないで」をもって、弛緩していた舞台とオケが一挙に引き締まり最終場面に雪崩れ込んだあたりは流石です。でも、やはりシェーファー・ファンとしてはケルビーノ待ちかな?

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コメント

YASUさん、ネトレプコの「フィガロ」はごく一部をNHKの放映で見ました。毎日モーツァルト特集番組です。シンプルな舞台でしたが、放映が早く実現しないかと、楽しみにしています。残念ながらシェーファー登場の場面は放送されなかったので、むしろこちらが気になりますね。ちなみにFMで放送された全曲録音は手持ちにありますので、改めてじっくり聴きたいと思っています。

投稿: ご~けん | 2006年12月 4日 (月) 01時29分

ご~けんさん、
そうですね。ザルツブルグの「フィガロ」は昨年の「椿姫」同様、正月にBSで放映してもらい、ネトレプコ、レシュマン、シェーファーの今が旬の強力トリオの競演を早く見たいものです。ところで、この3人でギャラが一番高いのは誰だろう?などという余計な心配をするのは私だけ(^^;)?

投稿: YASU47 | 2006年12月 4日 (月) 23時33分

今回は初映像化のモーツァルトオペラもたくさんあって、買っちゃおうかどうしようか悩んでいますが、モーツァルトをモダン演出で見るのはあまり嬉しくないので。。。でも、ヨーロッパのモダン演出は経費節減のためやむを得ず、ということもあるのだと、以前あるプロモーターさんに聞きました。(本当でしょうか?)
お恥ずかしいのですが、「ルチオ・シッラ」について調べた記事を事ブログに綴りました。そこで記載した大きな2項目のうち、あとの方のものは「ドン・ジョヴァンニ」自筆譜ファクシミリを初めて見た時からだいていた疑問についてのものです。お暇なおりにお目通し、ご批判給われましたら有り難く存じます。
http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/mozart_0f23.html">http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/mozart_0f23.html

投稿: ken | 2006年12月 9日 (土) 11時14分

kenさん、コメント有り難うございます。ヨーロッパでの現代演出の主理由が経費節減であることは間違いないと思います。人間の機微を描くモーツァルトの作品はとりわけ、その対象となり易いのでしょうね。
私は音楽の専門知識の持ち合わせは皆無ですので、kenさんのルーチョ・シルラやレシタティーヴォへのお考えにコメントすることは出来ませんが、モーツァルトの音楽を「楽しむ」ことだけの素人ファンにとっては「ルーチョ・シルラ」はなかなか手を出し難い作品のようです。

投稿: YASU47 | 2006年12月 9日 (土) 21時51分

なんだかかえって、つまらん物をお目にかけてしまったようで・・・すみませんでした。
「レシタティーヴォ」云々、は、綴り方がヘタだったですね。面白いかなあ、と思った程度の話です。ご容赦下さい。
オペラのお話のほかも、いつも素敵で、センスのよさがうらやましいです!
これからも楽しみに拝読させて下さい!
ありがとうございました。

投稿: ken | 2006年12月11日 (月) 15時54分

Kenさんのblogは硬軟自在の話題が満載ですね。「硬」は勉強になり(理解度は僅かですが)、「軟」には大いに共感することが出来ます。今夜の「のだめ」の記事も驚嘆する素早さでした!(番組中に書いていたとしか思えません(^^;))。お気に入りリンクに加えさせて頂きました。

投稿: YASU47 | 2006年12月11日 (月) 22時43分

なんだかもったいないお言葉を頂いてしまって! 冷や汗をかいています。
本当に、お恥ずかしい。「硬」は、もともと身内のアマオケ向けに、勉強用に始めたブログなので・・・で、自分自身がハマってしまって身内には見捨てられ状態です (^^;
私もお気に入りリンクに入れさせていただきました!

「のだめ」は、もう、ファンが多くて先着争いみたいなもんですから、見終わってすぐ綴っています。こういうのも、あと2回だけですけど。
すごいのは、原作者二ノ宮さんのところで開かれているBBSでは番組が終ると「ヨーイ、ドン!」で<今日出てきた曲当てコンテスト>が始まるんです。これは・・・ついていけません。ビックリしますが、愉快ですヨ。
http://www.mickey.ne.jp/usr3/nodame/bbs/kiss.cgi">http://www.mickey.ne.jp/usr3/nodame/bbs/kiss.cgi

イチョウは調べてみようと思ったのですが、資料がありませんでした。万葉集には出てこないので、伝来は平安期以降らしい、としか分かりません。中国にも、いつごろからあったんでしょうね。
お役に立ちませんで。

投稿: ken | 2006年12月12日 (火) 16時45分

Kenさん、
BBS覗いてみました。皆さんほとんどチャットのノリですね。曲当ては多くが聴いたことはあっても名前が出てきません。単なる惚けか・・・。
でも「木星」とか好きな曲が出てくると嬉しいですね。

投稿: YASU47 | 2006年12月12日 (火) 22時35分

はじめまして。Orfeoさんの御宅のリンクから辿ってきました。
以前から時々拝読させて頂いていたのですが、同じ映像を観た感想をまとめましたので、コメント&TBさせて頂きますね。

もともと、DGは映像も録音もそれなりに見聞きしているほうだと思いますが、ダ・ポンテ3部作の中では最も苦手で、好きと思えるようにになったのはごく最近です。

オペラの読み替え演出に関しては、あまり拘らないのですが(心に響いてくれば、オーソドックスでも読み替えでもどちらでも構わないと思っています)この演出には、残念ながらあまり意味が感じられなかったというのが正直な感想です。色んな意味で、難しい作品ですね。

投稿: ヴァランシエンヌ | 2006年12月20日 (水) 23時57分

ヴァランシエンヌさん、
コメント&TBありがとうございます。実はこれまで私もちょくちょくヴァランシエンヌさんのblogにはお邪魔していました。お気に入りLINKにも加えさせて頂きましので、これを機会に改めて宜しくお願い致します。
私もヴァランシエンヌさんと同様、読み替えや現代演出に抵抗はないのですが、独りよがりな理屈を感じてしまうこの舞台は好きになれませんでした。とりわけ「ドン・ジョヴァンニ」と「魔笛」では気に入った演出や舞台に出会うことが難しいですね。映像ではチューリヒ盤が展開に隙のない軽快さで気に入ってます。

投稿: YASU47 | 2006年12月21日 (木) 23時56分

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» モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》@ザルツブルグ 2006年 [Valenciennes Traeumereien]
今年はモーツァルトイヤーということで、夏のザルツブルグでの上演が全てDVD化されるということです。折りしも気分はドン・ジョヴァンニブーム+夏にドイツのArte-TVで放送された、ベルリン国立歌劇場でのカルメンの演出家と同じ演出ということで、まずはこちらを観てみることに。 ドン・ジョヴァンニブームと言っても、本当は私、この作品は長いこと苦手で、というか、とっつきにくかったのです。ここんとこ、ダレカさんのお陰で、集中的に見聴きした結果、やっと「好き」と思えるようになったというか。。。ああ、いい加減な私... [続きを読む]

受信: 2006年12月20日 (水) 23時49分

» ハーディング&クシェイの「ドン・ジョヴァンニ」 [Takuya in Tokyo]
モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」(ザルツブルク音楽祭2006) 指揮:ダニエル・ハーディング 管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 演出:マルティン・クシェイ <配役> ドン・ジョヴァンニ:トーマス・ハンプソン レポレッロ:イルデブランド・ダ....... [続きを読む]

受信: 2007年2月10日 (土) 04時45分

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