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2006年8月29日 (火)

ザルツブルグ音楽祭『ガラ・コンサート』

生誕250年を迎えてモーツァルトづくしだった今年のザルツブルグ音楽祭も830日をもって約40日間の宴を終わろうとしています。期間中は下のWebsiteを眺めながらため息をついていました。

http://www.salzburgfestival.at/home_e.php?lang=2

モーツァルトのほとんどのオペラ、全22作品が一挙に上演されたとのことですが、中でも最大の目玉はネトレプコ(スザンナ)、レシュマン(ロジーナ)、シェーファー(ケルビーノ)という今が旬の最強女声トリオとアーノンクール指揮ウィーンフィルによる「フィガロの結婚」でしょう。先日は早くもNHK FMで放送されていました(聴き逃しましたが)。昨年はネトレプコ人気により、「椿姫」が翌正月にNHK BSで放映されたように、今年も同様に映像で放映されることを大いに期待したいものです。個人的には「ドン・ジョヴァンニ」でのシェーファー(ドナ・アンナ)も是非聴いてみたく、この舞台の映像化も強く願っています。

オペラに加えてコンサートも多く上演されています。その中で730日のガラ・コンサートの映像が早くも(実に!)先日(826日)、BSで放映されていました。D・ハーディング指揮ウィーン・フィルをバックに、普段あまり聞かれないモーツァルトの珍しいアリアが多く紹介されていました。60828petibon_1 そして、ハンプソン(Br)、シャーデ(T)、ネトレプコ(S)、コジェナー(Ms)らの大物に混じってパトリシア・プティボンがついにザルツブルグに登場です。「ポントの王ミトリダーテ」からの一曲をいかにもプティボンらしい豊かな表現力で聴かせ、次の時代を予感させてくれるものでした。

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2006年8月19日 (土)

パウル・クレー展

千葉県佐倉市の川村美術館に出かけました。Klee05 お目当ては今世紀初頭に活躍した『パウル・クレー展』です。国内やドイツ各所から集められた約150点が展示されていました。近代抽象画の範疇に入るとはいえ、水彩画を中心に暖かい色調の絵、直線と曲線の使い分けや象形文字をヒントにしたアイデアと創造性満載の絵といったとても興味深い作品が並んでいました。色彩の豊かさと手法(紙やキャンバスの使い分け)の多様さにも興味が惹かれました。作者のチュニジア旅行時の印象をモチーフにしたパステル調の「駱駝(右写真)」はユーモアとリズミカルな感覚に溢れ、「赤と白の丸屋根」はモザイク調の直線構成の中でモスクの丸屋根が印象的で、共にとても親しみやすい作品です。

「赤いチョッキ(左下写真)」は後期(1930年代)の代表的な作品です。抽象性は増しますが、ユーモアと暖かい印象は変わりません。象形文字風の線が増えていくのもこの頃の特徴のひとつのようです。

かなり膨大な数の展示でしたが、飽きることはなく、期待以上の面白さに大きな満足感を得ることが出来ました。Klee02

川村美術館は佐倉市郊外の大日本インキ化学工業(株)総合研究所の敷地内に建ち、同社グループが永年にわたって収集した美術品が多数納められています。庭園をはじめとする自然環境も素晴らしく、今回のようにとても充実した特別展示もしばしば開催されています。同じ千葉北総地域の市民にとっては有り難いことです。

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2006年8月13日 (日)

津本陽『草原の覇王 チンギス・ハーン』

作者と主題の組合せに惹かれて発売直後の新刊を購入しましたが失望です。60813chingis これほど共感を呼ぶ記述や新しい発見のない伝記作品も珍しいことです。おまけに文章に躍動や情感を感じることが出来ず、フィクションとしての魅力もありません。やたらと人名と部族名(氏族との区別がないので分かりにくい)が羅列され、伝承や文献からとおぼしき文章が並ぶとても不自然な文体です。

今年はチンギスがモンゴル高原、オノン河畔のクリルタイ(大部族会議)でハーンに即位した1206年から800年ということでモンゴルでは多くの記念の催しが行われているとのことです。この年以降、チンギスに率いられたモンゴル軍は中国(金、南宋)、西域(西夏、ホラズム)、西アジア、北インド等への蹂躙を開始します。モンゴルの英雄は、これらの土地ではいまだに破壊者、殺戮者の代名詞です。サマルカンドの旧市街の東に位置するアフロシアフの丘の下にはチンギスによって破壊し尽くされた当時のサマルカンド市街が眠っています。その後、チムールの時代になってサマルカンドは再び繁栄を取り戻しますが、モンゴル軍による破壊のあまりの凄まじさゆえに同じ場所での再建は不可能であったとのことです。

モンゴル高原の遊牧小集団が突如、ユーラシアの全域を支配するほどにまで膨張し、更に中国元朝と西域、南西アジアのモンゴル系帝国(ウルス)に分岐していく経過には歴史的興味を大いに引き立てられます。この時代を扱った分かりやすい入門書としては杉山正明著「モンゴル帝国の興亡」(講談社新書)があります。

フィクションでは、冒頭に挙げた新刊には大いに失望させられましたが、一方、井上靖の「蒼き狼」は名作でした。史実に基づきながら文学の領域にまで高めたこの作品には作者の西域への思い入れが深く感じられます。60813ookami 自分にとっても、何十年もの昔に「蒼き狼」「敦煌」「シルクロード紀行」といった諸作品に出会ったことが大きな糧として残っています。当時は、仕事を通じて中央アジアと深く関わることになろうとは夢にも思いませんでしたが、実際に出会った風景に懐かしさを感じえたのは井上靖の諸作品に負うところも大きかったようです。読書の秋にはまだ早いですが「蒼き狼」を再び読み返してみることにしましょう。

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2006年8月 6日 (日)

訃報 エリザベート・シュワルツコップ

先日8月3日に、エリザベート・シュワルツコップがオーストリアの自宅で逝去したとのことです。享年90歳ともなれば天寿をまっとうしたものと言えるのでしょう。60806

彼女が活躍していたのは主に1930年代から1970年に至る約40年間であり、今となってはその現役時代を語れる人は少ないのでしょうが、多くの優れた録音により彼女の芸術の一端を知ることが出来ます。

私の手元にあるのがモーツァルト、シューベルト、R・シュトラウスといった歌曲集のCDというせいもあるでしょうが、印象としては、世で言われるような「マリア・カラスと並ぶ偉大なプリマ・ドンナ」というよりは、表面的な華美を排した、内省的で暖かみに溢れた尊敬すべきリート歌手というものです。とりわけ、R・シュトラウスの「四つの最後の歌」などはオーケストラがセル/ベルリン放響ということもあり、感傷に陥ることのない毅然さと明晰さに裏打ちされた、実に美しく深みを帯びた表現となっています。

今、上述に加えてヴォルフも含めたリートの分野でシュワルツコップのレパートリーを引き継ぐソプラノといえばC・シェーファーがまず第一に挙げられるでしょう。声の質と歌唱は異なるものの(シェーファーの方がリリックかつノンビブラートで現代風)、歌に深みと明晰さを有し、ある意味凄みさえを感じさせる点ではとても似ています。ドイツリートの良き後継者として活躍してもらいたいと思います。

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