映画「ハル」とその時代
深夜に録画しておいた映画「ハル」を約10年振りに観ました。
この映画は1995年に制作され、一部からは高く評価されたものの、上映館数が限られたこと、当時はまだ特別な世界が舞台であったことにより大多数からは認知されないままの作品であったように思います。その「一部」「特別な世界」というのはインターネット前史とも言うべき「パソコン通信」の世界です。
僕がPC通信を始めたのは1988年、パソコンがようやく16bitの時代となり、富士通系の「NIFTYSERVE」とNEC系の「PC-VAN」という2大通信会社が会員獲得に凌ぎを削っていました。僕は主にNIFTYSERVEのインターカルチャーフォーラム(後のワールドフォーラム)に常駐しながら連夜、会議室への書き込みやRT(チャットのことです)に精を出していました。当時の通信仲間たちとは今でも交流があり、メール交換やたまのオフラインの集まりに顔を出しています。
当時のPC通信参加者は主に、PC愛好者、システム技術者(ITという言葉はなかった)、無線ハムからの乗り換え、物好き(自分のような)が中心で、ある程度のPC操作レベルと文章表現力を必要としていました。メンバーたちに「オタク」といったイメージはなく、むしろ知的好奇心と対人積極性に富んだ者が多かったように思います(少なくとも僕の周りでは)。オフラインを重ねるうちに自然とカップルも何組か誕生し、皆さん、幸せな家庭を築かれています。
その時代から比べると、インターネットの時代、情報の入手と取り扱いは格段と便利になり、最早それ抜きの生活は考えられませんが、ネットを通じた人間関係の希薄さという面では、安易な手段と稚拙な表現力でいとも簡単に人間関係を築き、あるいは解消することが出来るという現代社会そのものを映し出しているように思えます。
「ハル」の主人公たちも長い時間、PC通信上での交流を続け、実際に二人が対面する場面で映画は終わります。ここで描かれている間合いや空気というものは、恐らくはPC通信経験者でなければ理解し難いかもしれません。ヒロインはすでに若手演技派として頭角を現わしていた深津絵里さんです。彼女の抑えた表情が印象に残ります。尚、新幹線の内外でお互いに見つけ合おうとするシーンは黒澤明の「天国と地獄」の有名なシーンに酷似しており、パクリと言われても仕方がありません。
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